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zoom RSS 朽ちていった命 ―被爆治療83日間の記録― NHK「東海村臨界事故」取材班 新潮文庫

<<   作成日時 : 2012/08/06 00:42   >>

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画像昨年の震災から一年半が経って、原発をめぐる世論も、段々と論調が変わってきたように思う。この夏の暑さとともに原発も仕方ないよね、という空気が漂っている。今週も先週も、週刊文春が原発の記事を載せているのだけれど、そこで意見を述べている評論家が、福島で原発の被害にあった人たちに対して「『この気持ちがわかるか』と聞かれても気の毒だけれどわからない」と言い捨ててはばからないのに、驚いた。いや、それは私も本当のところはわからないと思う。でも、「わからない」と言い捨ててしまう無関心と根拠のない自信は、どこから来るのだろう。何のために私たちに言葉と想像力というものが与えられているのだろう。それは、時間と空間を超えて、理解しあうためではないかと私は思うのだけれど。少なくとも、私はわからないことは知りたいと思う。そして、この本は、私に、わかっていなかったことをひとつ教えてくれた。

この本は、私たちが遠く忘れかけている東海村の臨界事故についてのドキュメントである。国内で初めての臨界事故で被爆し、亡くなっていった大内さんという男性の闘病の克明な記録だ。私も、たくさんの広島や長崎についての記録を読んだことがあるのだけれど、この記録に、また別の意味で衝撃を受けた。後書きで柳田邦夫さんもお書きになっているけれど、被爆の怖さについて、私はある程度知った積りでいたのだけれど、これほど人智を超えて怖ろしいものだとはわかっていなかった。

この事故にあい、被爆してしまった大内さんは、10年前の最先端の技術と薬を総動員させた治療を受けている。でも、一言で言うと、惨敗なのである。放射能は、染色体を破壊する。破壊された染色体は、もう細胞を作れない。人の体は常に細胞が入れ換わって命を維持していくから、その大元のシステムを破壊されたら、もう再生不能なのだ。例えば、大内さんの皮膚は、被爆した部分が一切再生しなかった。だから・・・書くのも怖ろしいのだけれど、体の前半分の皮膚がずるむけのまま、そのまま、83日間を過ごされたのだ。ほんの少し肌が剥けただけでも、痛くて仕方ないのに・・・。医師や看護師が、毎日その皮膚に軟膏を何時間もかけて塗り、ガーゼを替えるのだけれど、皮膚から出ていく水分は、一日2リットルにもなったという。大内さんの痛みや苦しみは、どんなだったか・・。私は、広島や長崎で被爆された方たちの皮膚が垂れ下がってめくれていたのは、こういう訳だったのかと、初めてその医学的な意味を知ったのだ。そして、広島から何十年も経って、その医学的な意味はわかったけれど、為す術がないという意味では全く何の進歩もないということも、わかってしまった。

医学的な処置も残酷だと思えるほどに崩れていく大内さんに対して、医師も看護師も、治療そのものに対する疑問を感じるようになる。

「本当は、大内さんはつらかったのではないかと・・・(中略)・・・大内さんのためではなくて、大内さんのつらさなど何もわからないような人のために、自分は大内さんを生かす手伝いをしてしまったのではないかという、すごく恐ろしいことを思ってしまう」という、看護師の方の言葉が重い。

私たちは、放射能について為す術がない。使用済みの核燃料の処理さえ出来ない。いったん事故を起こしてしまうと、その周囲何十キロは死の土地になる。東海村の事故で被ばくしたのは、たった二人。その二人に最先端の医学を総動員しても、全く為す術がなかったのに、もし大きな事故でたくさんの人たちが被爆してしまったら・・と思うと、素人が考えただけで、そんな事態に対応するだけの備えをするのは「無理」としか思えない。その無理さを、このかけがえのない二人の方の命が教えてくれる。放射能を除去する技術も、被爆を治療する技術も何も持たない以上、核を利用することを、他の科学技術の進歩と同列にしてはいけないと私は思う。私たちは、核に対して為す術がない。そのことを、徹底的に教えてくれる本だった。明日は原爆忌だ。この本が教えてくれたことと共に、あの日のことを考えたいと思う。

2006年10月発行
新潮文庫

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
ERIさん、びっくりです。わたしもこの本を読んでいました。続けて読めなくて少しずつですが…やっと読み終えました。
被曝の恐ろしさにぞっとしました。医師や看護師さんの肉体的精神的な苦しみに、ただただ頭が下がりますが、まさに「惨敗」ですね。
そして、あれからわずか十年で東電の事故があって。
それなのに、前へ前へとつんのめるように進んでいくのが恐ろしくて仕方ないです。
今日、原爆忌ですね。
この日にこの本を読み終えたこと、そうしたらERIさんも読まれていたことを知り、ERIさんのレビューも読めて、わたしには、不思議なめぐり合わせの8月6日です。
ぱせり
2012/08/06 14:00
>ぱせりさん
今日も暑い一日でした。あの日を思わせるような・・。
大内さんを看護しながら、医療スタッフが次第に罪悪感や無力感に襲われていくのが、手にとるようにわかりました。こんなに為す術がないのだということも、私は悲しいくらいに知らなかったのです。この本を読んでしまった私は、原発を、他の科学技術の進歩と同列に論じてはいけないと心底思います。どこに進んでいこうとしているのでしょうね。私も恐ろしい。心底怖いと思います。
世界の片隅からあげる小さな小さな声ですが、私はこの恐ろしさに正直に声をあげていきたいと思っています。
ERI
2012/08/06 23:59
こんにちは、原発はどうやら止めることができないかもしれないとがっかりしています。せっかく原発稼動ゼロだったのに。
テレビでも放送され、本になり、さらに文庫になり・・・。それなのにERIさんやぱせりさんのような方でも今まで大内さんのことをほとんど知らなかった。ということはもう絶望的に知られていないっていうことかなあ。
昔「まだ間に合うのなら」という小冊子をコピーしたり、原発反対署名運動をしたりしたけど、廃棄物は溜まりに溜まり、もう間に合わないのではないかと思うようになりました。まだ間に合うでしょうか?
ときわ
2012/08/08 15:21
>ときわさん
いえ、けっこう物知らずです、私(汗)本当に知らないことだらけで、お恥ずかしい限りです。でも、確かに私の周りも、この怖さについてちゃんと知っている人は少ないように思います。
私も、原発の再稼働にはがっかりです。一年間にトン単位でたまっていく廃棄物は、どうするのか…何万年も保管するらしいですが、これははっきり言って未来を生きる人たちへの負の遺産ですよね。今を生きるツケを、今いない人に払わせる、その発想がもう間違っていると思います。お金の論理ですべてがなし崩しになっていく、そんな気がしてなりません・・・。
ERI
2012/08/08 22:53

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