絵描きの植田さん いしいしんじ   植田真 絵  ポプラ社

画像最近ちょっといしいしんじブームです(笑)なんかあるんですよね、急にぐっと傾いちゃうときが。そういう時は気持ちものるんで、ちょっとはましなレヴューが書けるかも・・。なんてね。

この本はいしいしんじさんと挿し絵の植田真さんの世界が融合したもの。そのせいかいしいさんも、いつもの強い磁場の中にいるような重力から解き放たれて軽やか。(私はいつもの引きずり込まれるような感じも好きなんですが)

主人公は絵描きの植田さん。(この挿絵を書いておられる植田さんがモデルなんでしょうか?)ストーブの一酸化炭素中毒のせいで、植田さんは聴力をほとんど失い、愛する女性も失ってしまった。植田さんは都会をはなれ、高原の一軒屋にひっこす。そこで、ほとんど誰にも会わず、絵を一人で描き続ける。やってくるのは、ひげ男のオシダさんくらい。彼はこの高原のことなんでも知っている山男。人から遠くはなれ、自分の世界に引きこもってしまった植田さんのところに、ある日、山の向こうの町から、母と娘がやってくる。活き活きとした生命力あふれる少女に植田さんの凍った生活が溶け出して、小川のように流れ出す・・。

この物語のキャンパスは、雪の白。その白に植田さんが心の中に音を取りもどす度に、あざやかな色彩で絵が描かれていく。それがとても美しくて感動してしまった。初めてイルマとメリの親子が登場するシーンの氷の上の
黄色いセーター。樹氷の横に現れるトナカイの気高さ。そして、山の祭礼で焚かれる炎の色。写生にでかけた植田さんの描く草花の色。少女の生命力と自然の持つ大きな力や美しさがかさなってあふれ出す、その勢いと驚きが、また植田さんに新しい世界を開かせるという事が、切り取ったような自然描写で語られる。それがとても心地よくて、一編の映画を見ているよう。言葉が視覚を作り上げる楽しさを存分に味わえた。いつもの凝った構成のお話を書くことよりも、閉じていた眼がまた開く感動を描き出すことに重点が置かれている作品だと思う。こういう散文詩のような世界も、またいいなあと。

この山の中に生きる人々の共同体としての面白さは、いしいしんじさんの独特の雰囲気がある。「向こう側」とは一線をひいて自分達の領域を犯されまいとする「こちら側」の世界。そこに生きている人々の心象風景の象徴のような祭礼のシーンの引き込まれそうな儀式は、民俗学的な分析までできるような、独特さ。白一色のこの物語の中で、燃える命を感じさせるあやしさでした。動物の姿を借りてあらわれる男達は「マレビト」なのだろうか。夢の中のように美しい自然の中にもそういう土俗的な雰囲気をにおわせるところが、とってもいしいしんじ的。この土地の奥深さと、そのあとで植田さんを襲う恐ろしい出来事の予感も感じさせるシーン。ここが特に好きでした。

ところどころに挟まれる植田真さんの絵もとても素敵。今手元にあるのは図書館の本なんだけど、やっぱり買って手元におきたくなる。そんな愛しい気持ちをおこさせる本。世代をこえて、おすすめです。

おいしい本箱 → http://www.oishiihonbako.jp/detail.php?book_no=000879
いしいしんじさんの本 → http://www.oishiihonbako.jp/detail.php?book_no=000838
                http://www.oishiihonbako.jp/detail.php?book_no=000797



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