強運の持ち主 瀬尾まいこ 文藝春秋社

画像瀬尾さんの本がとても久しぶりのような気がする・・。
彼女の一連の作品は、今の女性作家のほのぼの系の先鞭を
つけたんじゃないか、と思ってます。女性ならではの日常的な
感覚を大切にしながら、その時の気持ちの流れを素直に追う
小説。西加奈子さんや飛鳥井千砂さんは、瀬尾さんの成功が
なかったら出てきにくかったかもしれない、と思ったりします。

今回もほのぼのした味わいはいつもながら。何となくはじめた
占い師の仕事が妙にうまくいき、けっこう適当に答えている割には
商売が成り立っているルイーズこと、幸子。
彼女とやってきたときに、あまりにも最強な運の強さをもってる
ことに惹かれて彼女から奪いとった通彦とくらしている。
しかし、最強の運勢を持った通彦はほんとに地味な公務員で、二人の暮らしも
いたっておだやかなのんびりした毎日なんである。
そんな幸子のもとには、いろんな人がやってくる・・・。

幸子の占いのやり方を読んでいると、占いって、結局相手が言ってほしいことを
言ってあげる、それなんですね、きっと。私は占いをしてもらったことは
ないんですが・・・。相談を人にもちかけるときって、大概その答えを漠然
としていても持っているもんで、それを人に聞いてもらって、「そうそう。

それでいいん違う」と言ってもらうと、ほっとする。それが一番納得いく流れ
なんですよね。だから、「いや、それは違うで」と違うものを提示されても
「そうかなあ、そんなもんなんかなあ」と不服そうな声が出てしまったり。
私は占いというものに左右されるのが好きではないので行ったことは
ないんですが、ちょっと人の背中を押す、というこんな占いならあっても
いいんじゃないか、と思えます。

四つ収録されている短編のうち、一番いいな、と思ったのは「ニベア」
でした。妻が亡くなって、泣いてばかりの息子のために、女装して
お母さんのふりをしていた父親。もう8才になった息子にそんな手が通用
し続けるはずがない。もうそれがお父さんであることにとっくに気が付いている
子どもは、それをお父さんに言い出せずにいる。
そのお互いの気持ちが、いいですね。
二人でいろんなことを乗り越えてきたんだなあ、と感じてしまう。
女装するなんてきっと生理的に物凄く抵抗があったことも、息子の
ためにやってしまい、それがおかしいこともわからなくなっちゃう・・。
親というもののなりふり構わないおかしみがほのぼのしちゃうなあ・・。

「おしまい予言」も面白かった。何かが終わる気配を感じてしまう武田くん。
でも、何が終わるのかは、わからない・・。
「おしまい」の予感がする、というのは言われたら確かにぎくっと
してしまうけれども、終わりたいと思うこともたくさんあるんだから
それがいつもマイナスとは限らない。いつもいつも何かを終えながら
また何かが始まるんだよな、ということがなんだか愛しいですね。

どの短編も力の抜け具合がよくて、さらっと読める。
その反面、彼女のこれまでの作品にあった求心力みたいなものが
少し落ちているのが、気になりました。
・・・というか、やはり彼女のテイストが広まりすぎてきたのかな。
彼女のユーモアと暖かさのある文章は、やはり読んでいてほっとします。
その持ち味は、やはり素敵。もっともっと楽しい作品を読みたいと
思う欲深い読者のためにも頑張っていただきたいです。

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この記事へのコメント

Roko
2006年06月13日 00:31
勝手に弟子入りしてきた武田君がいい感じでした。
通彦さんのマイペースぶりもスゴイし。
瀬尾さんの描く男性って、不思議な人が多いですねぇ。
2006年06月14日 00:01
>Rokoさん
そういわれてみれば、普通にかっこいい男の人はいないですねえ(爆)
一番瀬尾さんの本でかっこいいと思ったのは、「幸福な食卓」の大浦くん。彼はかっこよくはないけど、いい男だったなあ。だからあのラストには、思いっきり泣いちゃいました・・。
トラキチ
2006年06月16日 00:54
ERIさん、こんばんは♪
TBさせていただきました。
ERIさんのおっしゃるように、瀬尾さんの成功がひとつのジャンル(ほのぼの癒し系とでも呼んだら良いのかな)を作ったと言っても過言ではないでしょうね。

確かに、瀬尾ファンにとっては少し転機を迎えた作品だと思います。
それは作品面と瀬尾さんの人生面と両方です。

ファンとしてはもっともっと書いてほしいのがやまやまですが、どうなるのだろう。
せめて年に1冊ぐらいでも書かれて、背中を一押しして欲しいですね。
2006年06月16日 22:39
>トラキチさん
コメントありがとうございます。
最近のブームとも言える女性作家の輩出の中にあって、やはり彼女の作品はいつまでも残る力があると思うんですよ。お仕事大切にしながら、少しでも書いていってほしいな、とファンとして思います。
ふらっと
2006年06月23日 07:17
わたしも『ニベア』好きでした。
傍からは滑稽に見えるとしても、
お互いを思いやる気持ちにあふれていて、きゅんとなりました。
ニベアってお母さんの匂いなのねぇ..なんていうことも思ったり。
2006年06月23日 23:38
>ふらっとさん
この「ニベア」って、あの昔の缶に入ったニベアですよね。
今も売ってるのかなあ・・。懐かしいですねえ。こういう小物を使うのが、瀬尾さんはうまいです。
☆すぅ☆
2006年07月11日 01:03
 こんばんは。
>どの短編も力の抜け具合がよくて、さらっと読める。
>その反面、彼女のこれまでの作品にあった求心力みたいなものが
>少し落ちているのが、気になりました。
うーん、何て鋭い!!
思わず唸りました。
心の一番深いあるいは弱いところに“ずん”と沁みる感じが、今回の作品は代わりに程よい力の抜け具合だったのかもしれませんね。
2006年07月12日 17:36
>☆すぅ☆さん
この作品は、これはこれで楽しかったんです。瀬尾さんの持つ独特の柔らかさは、最近でているたくさんの女流の方々の中でも、抜きん出ていると思います。でも、「卵の緒」のような、いくつかの光景が忘れられない作品に比べると、ちょっと弱いかな、と思ったり。瀬尾さんは、別に大切なお仕事を持っておられて、そちらでお忙しいみたい。そのお仕事で得られたものを、また教えていただきたい、と欲深な読者は願ってしまいます。
藍色
2006年09月15日 12:06
これが瀬尾さんの初読みで、暖かく雰囲気のいい作品という印象でした。
むかし見てもらった時は散々だったので、相手の背中をそっと押してあげること、というルイーズに共感。占いってカウンセリングだと思います。
「おしまい予言」はマイナスになりそうな話を、新しく始まることに向けていって、悪いことばかりじゃないんだ、と感心しました。
2006年09月15日 23:54
>藍色さん
初瀬尾作品、おめでとう~!!今度はぜひ「卵の緒」を読んでみてくださいませ。瀬尾さんの作品の中で一番好きな物語です。
これもほのぼのしてて楽しいんですが、瀬尾さんの力強さがあじわえますよ♪