風が強く吹いている 三浦しをん 新潮社

画像三浦さんの新作が箱根駅伝の話とは意表を突かれました。
スポーツ物は初めて・・だと思うんですが。
これが、面白かった!!三浦さんの新しい一面を見せてもらいました。
こう・・こんな事いって偉そうなんですが、書きたいことと作品のバランスが
良くなってきた、という感じです。幅が広がりましたね。
個性豊かな10人が、大学駅伝の最高峰、箱根をめざす。
その過程が楽しくて、一気読みしました。

箱根駅伝の、あの雰囲気というのは独特ですよね。
お正月という晴れがましさと、完全中継のある、まさに夢の舞台。
歴代のマラソンランナーも排出し、大学で長距離をやっている人なら
誰もがあこがれるものですよね。
ウチでも大概お正月はこれを見てますねえ。ご贔屓の大学が最近
上位に入れないんで、ダンナ様はちょいとご機嫌ナナメですが。
20kmという長い一区間を10人つなぐ・・母校の襷をつないでいく、と
いうところがまさに駅伝、日本人の心に思い切りヒットするイベントやなあ、と
思います。それに、たった10人でいどむ、寛政大学陸上部。
陸上部とは言っても、青竹荘というぼろぼろのアパートに住む寛政大学生を
清瀬という世話好きの4回生が無理やり駅伝に引きずり込むわけです。
高校時代に選手として活躍し、非凡な才能を持つ「走」(かける)以外は
ほぼみんなド素人。「え~、そりゃ無理でしょう」と思ったんですが、
それを清瀬がまあ、うまく操縦して鍛えていくんですよね。
このあたり、御伽噺ではあるんですが、それぞれのキャラクターの性格や
味付けが非常にうまいんで、読んでいると納得してしまう・・。
マンガ命の王子、留学生のムサ、ジョータとジョージの双子、おだやかで
実務派の神童、司法試験合格者のユキ、ヘビースモーカーのニコチャン、
クイズ大好きのキング。これで箱根いくんか?というメンバーが真面目に箱根を
目指すところが、面白いですわ。

しかし、この物語の核は、清瀬と走なんですよね。
足に故障を抱えて自分が「走る」上で高みを目指すことが無理だとわかっている清瀬。
故障してから、自分が「走る」ことにどれだけ心を燃やしていたかがわかってしまった彼。
その思いを、清瀬は「走」という、まるで走るために生まれてきたような
男に託していく。縛られるのがキライで、走る本能だけで生きている走は、
高校時代のトラブルから、どこかに属することを怖がっている。
自分が走ることに対する意味はどこにあるのか。
走る、ということは何なのか。
もやもやを抱えたままでいた走は、清瀬との信頼関係の中で、少しずつ自分の
答えを見つけていく。その位置づけを、走は、思いを言葉にすることで
学んでいくんですよね・・。
ここが、全くしをんさんらしくて、良かったですよ。
「俺に欠けていたのは、言葉だ」と走が思うところ。
走る、という体を使うことにおいても、自分のことを分析し、冷静に判断していく
ためには言葉が必要であること。自分を確かめていくのは、「言葉の力」か・・。
それは、本当にそう思いますです。はい。

「走りこそ走に、すべてをもたらすからだ。この地上に存在する大切なものー
楽しさも嫉妬も尊敬も怒りも、そして希望も。すべて、走は走りを通して手にいれる。」

・・これは、何かを突き詰めようとする人なら、とても共感できる言葉なんだと思う。
自分が持っている、一番大切な、大好きなこと。
どこに到達するか、ではなくて。「一番」であることを目指しても、それははかなく
目の前からすり抜けてしまう。その到達する過程で、自分が得るたくさんのもの。
それが、宝物なんでしょうね。これを仲間たちとのつながりの中から発見していく
走の心の中を、しをんさんはドラマチックな文章で書いていく。
エッセイに比べて、少しイタタがただようしをんさんの文章が、スポーツという
分野にけっこうはまるということを発見しました(あんたもイタタ・・という声が聞こえた)
私はしをんさんのイタタな文章はけっこう好きですが、それがダメ~という方もおられると思うんですよね。・・オジサマ層とか(あ、すいません、きめつけて)
でも、これはそういう方でも素直に読めるんじゃないか・・。そう思います。

最後のゴールのところは、やはり感動です。
ネタばれになるんでこれ以上は言いませんが、10人がそれぞれの気持ちを
背負い、そして仲間への思いを背負い、走って襷をつなぐ。
箱根を見ていて、時々うっと泣きそうになるんですが、そんな感動を目いっぱい
教えてもらえますわ。堪能させていただきました。
この作品なら、たぶん直木賞でもごちゃごちゃ言われることはなかっただろうな。
あのときの色々を、この作品で彼女ははじき返た、と思います。
しをんさん、脱帽です。

おいしい本箱 http://www.oishiihonbako.jp/detail.php?book_no=001127


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この記事へのコメント

藍色
2006年10月28日 02:49
こんばんは。十人のキャラクター、みんなが魅力的で、ひとりひとりの気持ちが伝わってきました。笑える場面もいっぱいでしたね。・・カケルが思いを言葉にすることで学んでいくこと・・。書きたくてもうまく書けなくて断念した部分を、ERIさんが見事に書いてくださってて感動しました。“その到達する過程で、自分が得るたくさんのもの。それが、宝物”の部分も。・・箱根駅伝は親戚の挨拶回りにいく前にちょっと見られるだけなのですが、見方が大きく変わりました。・・表紙から裏表紙まで繋がっている、山口晃さんの時代劇を思わせる繊細なイラストは、駅伝の雰囲気と物語のエピソード(下部分、モノクロで右から左)を伝えて、1枚の絵巻物みたいでした。中表紙は住んでいるアパート、竹青荘の立体図解(名犬ニラつき、笑)でしたね。
tomekiti
2006年10月28日 22:08
こんばんは~。
『風が強く吹いている』とっても良かったですね!
今までしをんさんの小説では『白蛇島』が私的には一番だったんですが、
こちらが格上げされた感じです。
10人のキャラクターもさることながら、
「走る」ことの意味を込めた本作はかなりの出来と言っていいのではないでしょうか!?
純粋にとても感動しました。
2006年10月28日 22:10
>藍色さん
ねえ・・素敵な物語でしたよね。装丁もとっても凝ってました。
楽しんで書いていることが伝わるような、ノリノリ感がありました。
まさに「リーダーズ・ハイ」でしたね!!
2006年10月28日 22:23
>tokimekiさん
これは、かなりの出来ですよ!個人的にNo.1 かな・・。
読んでいて、もっと、もっとと気持ちが乗っていくのがわかりました。
それぞれが箱根の区間を走りながら、自分の思いを確かめていくのが
よかったですね。
モンガ
2006年11月08日 23:51
やっぱり、巧いですよ、三浦しをんさんは。
10人のキャラがうまく配置されていました。
一気読みでした。
ふらっと
2006年11月29日 07:03
走るだけのことでどうしてここまで感動するんでしょうね。
スポーツってほんとうに不思議。
走るのなんて大がつくほど嫌いなわたしなのにどうして?という感じです^^;
それにしても、清瀬君、名監督になりそうですよね。
走が入団した清瀬チームのその後も見てみたい気がします。
2006年11月30日 00:57
>ふらっとさん
「走る」って、原始の血を目覚めさせる何かがあるのかもしれませんね。
私も走るのは昔から苦手で・・。こういう楽しみを持っている人がうらやましいですよ。ハイジは、名監督になりますよね。やっぱり目指すはオリンピックでしょうか?
miyukichi
2007年07月16日 22:13
 こんばんは♪
 TBどうもありがとうございました。

 関西人の私には、箱根駅伝への思い入れもそれほどなく、
 1区が約20kmもの長距離であることも
 知らなかったくらいです^^;;
 (見たことはあっても、それほどちゃんと見てなくて)
 来年は絶対ちゃんと見よう!って思いました。

 走るってことを通して、いろんなことを考えさせられますよね。
 途中からは涙ボロボロ流しながら読んでました。
 ところどころ笑いもしながら^^

 http://blog.goo.ne.jp/miyukichi_special
2007年11月07日 22:13
ERIさん、こんばんは(^^)。
それぞれが、自分に合った走りで駆け抜けていったレースのシーンは、ホント、素晴しかったですね。
ここのキャラと走りの特質を見抜いて、各区間に配置するハイジの能力もすごいと思います。きっと名指導者になるんでしょうね。
個人的には誰にも「監督」と呼ばれない「大家」がツボでした(笑)。
ERI
2007年11月10日 01:00
>水無月・Rさん
ツボがたくさんある小説でしたよね!!
「めぞん一刻」のテンポに似てるかなあ、とも思いました。個性を前面に押し出す走りが、なんとも言えない気持ちよさ。来年の箱根が楽しみです。