ぼくと1ルピーの神様 ヴィカス・スワラップ 子安亜弥訳 ランダムハウス講談社

画像みのもんたと見詰め合って、ズドドドド・・・・という長い、長いタメ(あれ、辛そうだね)
「正解~~~~~!!」か「残念~~~~~!!」か。
そう、クイズミリオネアでございます。インド版ミリオネアで10億ルピーを獲得した
ラム・ムハンマド・トーマス、18歳。1ルピーは2.4円くらいらしいので、24億円か!!
凄い賞金やわ・・。その賞金を、全ての問題に正解して番開始以来初めて手にした彼。
しかし、彼は不正をしたと番組側に訴えられて、警察に捕まってしまう。
窮地に追い込まれた彼のもとに、女弁護士がやってきて、彼を救い出す。そして、
学校もまともに行ったことのないウエイターである彼が、なぜ全ての質問に答え
られたのか、説明してほしいと彼にせがむ。そこで、ラムは、問題一つ一つに
まつわる、彼がこれまで生きてきた人生の物語を始める・・・。


18歳のラムなんですが、もう彼の人生ときたら・・・。
孤児として育ち、ようやく引き取ってくれた神父さんは殺され、次に引き取られた
ところは子どもをわざわざ痛めつけ体を不自由にさせて物貰いをさせる、という
極悪非道な家。そこを抜け出せば、今度は・・・。
という風に、まあどこに行っても、彼には苦労とアクシデントが付いてまわる。
そのエピソードの一つ一つが、見事に質問の答えになっていく、という
面白い設定です。その構成の面白さもいいんですが、ラムの人生の、あまりにも
過酷なこと、そして彼の人生を通じて書き起こされる、人間の複雑さと
滑稽さ、残酷さ、そして美しさに、自分も巻き込まれていく快感が味わえます。
インドという国ならではの、イスラム、ヒンズー、キリスト教の入り混じる複雑さ、
カースト、激しすぎる貧富の差、警察の汚職。その中で「親のいない子ども」は
常に搾取される弱い存在・・。一歩間違えれば、売り飛ばされ、性の玩具にされ、
ぼろぼろにさせられてしまう・・。しかし、ラムは負けてはいないんですよ。
自分の身一つ、才覚と知恵一つで、たくさんの危険を乗り切り、友達を助け
生きていく・・・。友達もお金も愛も、手に入れては失い、を繰り返す人生なのに、
実にしたたかに立ち上がって、歩いていくんだなあ。

インドには行ったことがないんですが、一度いくと、全く受け付けないか
それとも虜になるか、どっちかだと言いますね。
むき出しの人間の匂いがします。良くも悪くも、むき出しで、強い。
ここに書かれている、十二の物語は、どれも人間の欲望が渦を巻く物語
なのだけれども、ラムはそのどれにも、染まらない。
一番虐げられたところから始まっている彼は、身一つになることを恐れないから。
コイン一つ頼りに自分を切り開くラムを、読んでいるうちに好きにならずに
いられない。そして、友達のサリムと、恋人のニータとともに、幸せになって
ほしいと心から願ってしまう。最後の質問まで、ちゃんとどんでん返しも
用意されていて、これが始めて書いた小説とは思えない、面白さです。
印象的な場面もたくさん・・・。

父親に性的虐待をうけそうになっている少女の手を、壁の穴から手を突っ込んで
握るラム。
盲いた少年の歌に、最後の100ルピーを渡してしまう、ラムとサリム。
自分が戦争の英雄だと嘘をつきながら死んでいった老人のなきがらを眺めるラム。
美しいままで死にたいと願う女優に、抱きしめられて母を思うラム・・・。
そして、一人の娼婦の少女を本気で愛してしまう、ラム。

果たして、彼と彼が愛する人は、どうなったのか?
それは読んで確かめていただくとして、それはうんうん、と私を満足させたことを
お伝えしておきます・・・。現代の千一夜物語、一筋縄ではいかない人間たちの物語を
どうぞ!!

おいしい本箱 http://www.oishiihonbako.jp/detail.php?book_no=001137

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