空色ヒッチハイカー 橋本紡 新潮社

画像ロードムービーの匂いのする、青春小説。
決してかっこよくはないけれども、旅の中で、少年は何かを掴む。
しかも、可愛い女の子が道連れだ。こんなに忘れられない旅は、ないよね。

18歳、高校三年の夏。真っ青なポンコツキャデラックに乗って、少年は旅に出る。
それは、いつも自分の前を歩いていた、何でもできる、兄の車だ。
東大、国家一種をあっさりパスし、エリート官僚として何不足なく歩いていたはずの
兄。その兄が、あっさりとその全てを捨てていなくなってしまった・・・。
兄の背中を追うことを目標としていた彰二は、兄の残した車に乗って、旅する
ことを思いつく・・・。

この旅のメインは、この空色のキャデラック。
めっきりキャデラックなんて見ないよなあ。昔習っていたお習字の先生の家が
とってもお金持ちで、この車がいつも置いてあった。もう、ムダにでかい。
なぜ、こんな1959年製(私より年上やし)の車に兄の彰一が乗っていたのか。
それは、「ファンダンゴ」という、兄弟にとって、とても大切な映画の思い出に
繋がる車だから。でも、大好きな「兄ちゃん」は、その車も置いていったのだ。
そんなのってないよ、とダダを捏ねるために、彰一は旅に出た。
それは兄を探す旅だけど、同時に自分を探しに行く旅。
その旅のかっこ悪さと不器用さが、可笑しくて、情けなくて、そして愛しい感じ。
もう、途中で拾った杏子ちゃんに、振り回されっぱなしの彰二くん。
杏子ちゃんが、またかっこいいわ。乗せてもらってるくせに、もう完全に
主導権を握る。「乗ってあげてるのよ」という風情を漂わせて堂々としている女の
強さ。無防備な彰二の若さとまっすぐさを可愛いと思いながらも、うまく
それを見せないところ・・・。私は、ついこの杏子ちゃんに感情移入して
この物語を読んだのでした(爆)彰二くんは、母性をくすぐるタイプだわ。



彼女にうまく転がされながら続ける旅で、彰一はいろんな人と出会う。
人生最後に運転する車として、運転席に坐った老人。
山奥で拾ったカップルに車を占領されて、はからずも凄いシーンを目撃して
しまったり。いわゆる、軽い女の子を拾ってイケナイことをしてしまい、杏子ちゃんに
手ひどく怒られたり。筋金入りのヒッチハイカーを拾ったり。
人生って、一色じゃない。空色の自動車の中で感じる人生は、どれもささやかで
小さくて、ちょっと自分勝手。その「生」の匂いが、とても等身大で、こういうところに
橋本さんのうまさを感じてしまう。

そして、やっとたどり着いた「お兄ちゃん」のもとで、彰二は、兄が自分だけの人生を
掴み取ろうとしていることを知る。ああ、やっぱりお兄ちゃんには、かなわない・・。
でも、彰二くんは、杏子ちゃんの優しさを手に入れたからなあ。

「イチゴをぷって飛ばして、下らない意地を張って、それで人生決めてきなさい。
とにかく、男と男の勝負なのよ。負けちゃ駄目よ。気合いよ、気合い。」
こんなに、ばっちりと核心を突きつつ(爆)しかも、優しい女の子がいてくれる、
それだけでいいやん、と思ってしまう。
皆、誰かの愛しい人だ、ということ。(そんな小説があったな)
人生、最後に残るものも、それから出発もそこなのかもしれない。
その間を空色の車で旅した、18の夏・・・。
その感触が、青臭くも楽しい物語でした。

おいしい本箱 http://www.oishiihonbako.jp/index_f.php


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この記事へのコメント

藍色
2007年02月07日 02:37
爽やかな後味の青春小説でしたね。やっぱり杏子ちゃんに感情移入されたのですね。予想通りでした(笑)。まさに“「乗ってあげてるのよ」という風情”でしたね。私はいつもどおり主人公に感情移入してたので、振り回される彰二に、「しっかりしなさい」、と言ってました(時々自分にも言います、笑)。彰二くん、背伸びしてたけど素直でいい子ですよね。杏子ちゃんの「気合いよ、気合い。」という励ましに好感度アップでした。“皆、誰かの愛しい人だ”、って、いいセンテンスですね。しみじみ…。
2007年02月08日 00:05
>藍色さん
え?予想通り?何でかな~♪
可愛い女の子になって、男の子を振り回してみたいという願望が確かに、ある(爆)願望がある、ということはそれが現実ではなかったということですわ。
できたら、杏子ちゃんみたいな、いい女に生まれ変わりたいもんです。