【新釈】走れメロス 他四篇 森見登美彦 祥伝社

画像森見さん、楽しく遊んでおられます。
この芸の細かい遊び方が、なかなか楽しい。
「山月記/薮の中/走れメロス/桜の森の満開の下/百物語」の五編の小説を
下敷きにして、「夜は短し歩けよ乙女」で出てきたキャラクターなんかも
登場して、もう独特の森見ワールドが展開されています。

昔ね、こういう遊びをやってました。
国文科だったんで。あれこれ、文豪と言われる方々や、自分の好きな作家の
文体や作品を真似て、登場人物を自分たちにして、連作でパロディ。
一番上手だったのは、写真でおなじみのSちゃん。志賀直哉に芥川。
絶品でしたね~。当時のノートは、まだおいてあったりします。
一時夢中になりましたね。体に馴染んだ、当時とことん読み込まされた作家の
文章の中に自分を潜ませて、そのズレを喜んでた。
でも、その遊びは、それぞれの作家が強烈な自分だけの世界と文体を持っているから
こそ、できる遊び。今、そういうことをしようと思っても、難しいですよね・・。
だって、漱石や鴎外なら、名前を伏せられてたった数行文章を抜粋されても
そうとわかる。でも、今・・そういう独自さを持っている人は少なくなりました。
筒井康隆、第三の新人、あたりまでならたっぷり遊べました。

森見さんのこのパロディも、強烈な個性の先行作品があってこそ。
それらが、体に馴染んでいればいるほど、面白い。
そしてもう一つの仕掛けは、ばらばらの世界観の作品なのに、
登場人物が微妙に重なってること。また、それは「夜は短し歩けよ乙女」の世界とも
繋がっているという芸の細かさ。詭弁論部、万歳(笑)
つまり、先行作品の世界の中に、入れ子のように森見さんの世界が重なって
それが、また他の作品とも重なってる。色の違うセロハンを、いろいろ重ねて
自分の色にしてしまう、森見さんの聡明さとユーモア感覚が、好ましいです。
そして、皆とことんアホなことをしてます。この、アホに徹する、意味のないことに
必死になる。・・はい、これが文化というもんです。
だって、文学って、役にたたないことの集大成みたいなもんじゃないですか。
春、息子の大学の講義の一覧を、しみじみ眺めてそう思いましたね(文学部です)
なんだか役に立つのか、立たないのか、わからない問題を、必死でやってる方々
がいるからこそ、文化がなりたっておるのです。
だって・・役に立つことって、面白くないもんな・・。(私にとっては、ですが)
小説なら幾らでも読めるのに、一時行政書士の勉強をしようとおもってテキスト
買ったものの、1ページも読めないままに、終わりました(笑)
文化というものは、役にたたないから偉大なんです。


面白いと思ったのは、二人の男の話。
「桜の森の満開の下」の主人公の男。
彼は、この、森見ワールドの、はたまた文学の、役にたたない面々の仲間で
あったわけです。それが、一人の女が、その世界から彼を連れ出して、売れっ子
小説家にしてしまう。初めは、嬉しがっていた彼なんですが、そのうち、自分が
空虚な、空っぽな、小説製造機になってしまったような気になる・・・。
最後、彼は腑抜けのようになって、桜の下で佇んでいる・・・。
一方彼が女に会う前に尊敬していた、永遠に完成しない小説を書いていた「山月記」の
「底なしの阿呆」斉藤は、自分の肥大した自意識にさいなまれて、人間世界から
離脱する。自分の自由な精神の世界と、現実との折り合い・・。
作家という職業の、微妙なバランスというものが匂って、面白かった。
これはねえ・・きっと表現するものの、永遠の課題ですね。

京都という場所を借りながら、どこかずれた異次元ワールド。そこに
仕掛けられた遊びの罠に、何個はまることができるかな?
こういう独自路線を、これからもどんどん進んでいってほしいです。
そして・・詭弁踊りを、これからも見たいです(笑)
役にたたないこと、万歳。







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この記事へのコメント

tomekiti
2007年08月29日 21:19
ERIさん今晩は♪
私は『走れメロス』以外は原作をほとんど知らなかったので、元のお話を知っていたらもっと楽しめたのかなぁと思いました。
ERIさんはご存知のようで・・・さすが国文科!
本書を読む上ではちゃんと役に立ってますよ!
でも小説とか絵画とか演劇とかって、特に生活が便利になるわけでもなく、ホント役に立たないですよねー。
でもないととっても寂しいですよね!
というか、生きていけません!!
私も、「役に立たないこと、万歳!」です(笑)
2007年08月31日 02:05
>tomekitiさん
いや、ほんまですわ、この本読むのに、ちゃんと役にたってますねえ(笑)良かった~(*^ ^)v
そうなんですよ。役に立たないことこそ、面白いんです!!これは、生きていくための心が必要とするご飯みたいなもんですよね。だから、ないと生きていけない!!「役にたたないこと、万歳。」\(^ ^)/
2008年04月27日 00:32
ERIさん、こんばんは(^^)。
近代文学を京都&腐れ大学生を舞台に翻案すると、愛と笑いとツッコミどころ満載な、こんなんできました~♪って感じでしょうか(笑)。
詭弁論部、バンザイ。詭弁を弄して、今後も森見作品で活躍して頂きたいものですね!
ERI
2008年05月02日 00:37
>水無月・Rさん
どれだけパロディにしても、森見さんらしいのが、面白かったですねえ。原作と新しい森見ワールドのコラボ、これからも読みたいですね!!