ラジ&ピース 絲山 秋子 講談社

画像いつも不機嫌なFM放送DJという、ちょっと盲点を突かれたような気持ちになる設定の小説だった。主人公の野枝は、自分が醜い、という価値観を木の根っこのように心に張り巡らせている人。物心ついたときから、そのアイデンティティで生きてきた
ものだから、他人に心を開くこともなく、人に甘えることもなく物欲しそうな顔をしたこともない。他人が自分に親切にする、ということを、一切信用しまいとして生きている。その彼女が、分厚いガラスに隔てられた放送ブースに入ると生き生きした声を放ち時間を操る・・。その落差もなかなか面白かったけれども、この野枝という女性のまとっている、「不機嫌」の空気感が、そこはかとない滋味のようなユーモアを湛えて面白い。

田辺聖子さんの小説に「人間ぎらい」という絶品の短編があります。般若のような顔の中年の女性の物語なんですが、人生のあれこれに置いていかれたような女が一人で生きている中で、他人を見れば見るほど、人間というものがどんどん嫌いになる。でも、不思議に、それがいやではない・・。その「人間ぎらい」の気持ちが、じんわりと心の底で自分を暖めてくれるように思う、という話です。その感じを思い出しました。野枝は・・・何というか、計算で生きてないんですよねえ。他人によく思われたい、とか。ちやほやされたいとか。そんな欲望は、彼女にとって一番恥ずべきことであり、厭わしいこと。喜怒哀楽も、すべて自分を守る「醜い」という鎧の中に押し込めて生きている女。(しかし、多分野枝は、自分が思うほど醜くはないんだろう。家族の中でそう思わせられてしまった節がある)非常に頑なではあるんですが彼女のいいところは、その自分を憐れまないこと。だから一人で淡々と生きている。ごく、淡々と・・。

その長年培った重い重いよろいを、ふと一枚だけ脱ぎ捨てて身軽になる瞬間が、野枝に訪れる。そのきっかけは、恋人がくれたメールでもなく、親の手紙でもない、リスナーのメールだ、というところが良かったですねえ。それも、一通のメールが人生を変えた・・というドラマチックなものではなくて、たくさん彼女のところに送られてくるメール、そのハンドルネームがある日、自分をとりまく星のように瞬いて見える。少しずつ溜まった水があふれるように、それは野枝の心を浸して、野枝の鎧を押し流す・・・。「ラジオ」という媒体だからできる、この繋がりが、いいじゃないですか。テレビだと遠すぎる。でも、ラジオって、とてもパーソナルな手触りの媒体ですよね。それでいて、くっつきすぎない、いい距離感。その距離感が、ぽろぽろっとかさぶたをはがすように、野枝の傷を包むのがキモチイイ。押し付けがましくもなく、声高に感動するのでもなく、ごく自然に、さらさらと、水が流れるようにそのあたりの機微を読者に納得させる文章の力。そこが、絲山さんの魅力です。



この小説、FMぐんまの「ラジ&ピース」という番組とのコラボレーションなんですね。なのに・・よく「醜い・不機嫌」なんてことをコンセプトに、小説書きましたね、絲山さん。とても彼女らしいなあ。でも、この彼女の「不機嫌」に身を浸すのはけっこう快感でしたねえ。・・・ちやほやされたい、物欲しげな女は嫌いなんですけど。
ぶっきらぼうな彼女と、ちょっと飲んでみたい(笑)私は、下戸だけどね(汗)

おいしい本箱 http://www.oishiihonbako.jp/index_f.php






ラジ&ピース
講談社
絲山 秋子

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この記事へのコメント

Roko
2008年09月12日 00:45
ERIさん☆こんばんは
「ラジ&ピース」は本当にある番組なんですか!
野枝が信じていた世界は、いったい何だったのでしょうね?
こういう誤解を持っている人って、きっと多いと思うんです。
それがどんなにつまらないことなのか気付いてほしいのにね。
ERI
2008年09月12日 20:28
>Rokoさん
私も、検索してみてびっくりしたんですが、あるんですよ。FMぐんまは聞けないんですが、興味ありますねえ。
野枝は極端ですが、こういうコンプレックスって多かれ少なかれ誰にもあることかも・・と思います。でも、人間、不思議なもので、それがあるから頑張れたりする時もあるし(笑)マイナスがひっくり返ってプラスになっていくように、生きていけたらいいですね!