見知らぬ場所 ジュンパ・ラヒリ 小川高義訳 新潮社

画像ジュンパ・ラヒリの作品を読むのは2冊め。
『停電の夜に』を読んだことがあったなあ・・。
インドという国を母国に持ち、頭脳を頼りに
アメリカという国で生きることを選んだ人たちの
物語。異国に暮らすからこそ、見えてくる文化の
違いを、感受性豊かに書いた佳品だったかと
記憶してます。久々に読んだこれらの作品では
その異文化というものの軋みから、テーマが
家族のあり方そのものへと広がりを見せているように
思います。どの短編も読みやすく、すっとそれぞれの
家族の物語に感情移入できる・・文章家ですねえ、ほんとに。

どの短編も、そんなに派手な出来事が書いてあるわけではなくて、
淡々と家族の過ごした時間のひとコマが綴られています。
非常に客観的で細やかな文章で、親子、夫婦の有様が綴られていく。
一組の夫婦がいる。そのどちらにも・・夫にも妻にも、それぞれ両親が
いて、兄弟がいて、その人たちを取り巻くたくさんの人たちがいて。
両親の育った時代があり、国があり。人生の中でであった人、
関わった人、愛し合った人がいる。人が一人生きているということの
後ろに、これだけの背景・・広がりがある。
複雑な網目の中に、浮かんでいるような「家族」というものの不思議さが
この彼女の緻密な文章から透けて見える。
子供を生み、育て、またその子が親からはなれ、また子を作り、という
繰り返しの中に流れる、永遠に変わらないものがじわっと胸に沁みます。
出会って、愛し合って、また別れていく。
それは、恋人とか夫婦に限らず、親子でも、やっぱりそうなんですよね。
その痛みとか、切なさとかは、やっぱり「人」の永遠のテーマ・・。


二部の「へーマとカウシク」の三連作は、特に見事で読み応えがありました。
一組の少年と少女が、幼い頃に出会い、成長し、また出会う。
30年ほどの時の流れの中で、それぞれが過ごした時間と、家族との
歴史が、ピンポイントに綴られます。その「時間」の流れ方が、ドラマチック・・。
少年の美しい母親に対する思い出に操られるように、時を経て出会う二人。
ああ・・ロマンチック(笑)でも、それが甘くならないところが、この人の持ち味です。
対象との距離の取り方がうまいんでしょうね。
あと、一つ一つのエピソードが、妙に記憶のツボを突いてくるんですよ。
へーマが、初めてカウシクの母にブラジャーを買ってもらうところとか。
家の中に、違う家族が寝起きするときの違和感とか・・。
あと、夫婦の気持ちや信頼が、崩れたり、またそれを張りなおしたりして
川のように流れていく哀感とか(笑)
昔の自分の光景や記憶とシンクロしていくんです。
そういう意味では、この物語たちは、ある程度人生を経験してないと
心に沁みてこないかもしれないですね。大人の小説かもしれません。

ジュンパ・ラヒリの物語の人たちは、皆インドからやってきた人たち。
自分達のルーツ・・母国を捨ててきた、ある意味喪失を抱えた人たち。
それでいて、頭脳を元にエリートとして生きている、移民としては上の階級にいる人たちなんですね。
アメリカという国が、世界中の頭脳も飲み込んで大きくなっていく、その構図も見えて
興味深いんですが・・・。人間って、人の心って、ほんとに世界中変わらへんもんなんやなあ~・・と。
月並みなんですが、その事に、感動してしまいます。
前に読んだ時より、好きかな・・。私より若い彼女の人間観察力に、驚きます。
読んでよかった短編集でした。訳もこなれていて、読みやすいです。

おいしい本箱 http://www.oishiihonbako.jp/index_f.php







見知らぬ場所 (Shinchosha CREST BOOKS)
新潮社
ジュンパ・ラヒリ

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