復讐の誓い ミシェル・ペイヴァー さくまゆみこ訳 酒井駒子絵 評論社

画像このシリーズもとうとう5作目になりました。
ほんまに、この子は苦労してばっかりやなあ・・と
思う、このシリーズですが、今度のトラクは、復讐という
魔物にがんじがらめになって旅をします。
大切な親友と喧嘩して、一緒に見張り番をするはずの夜に
彼を一人にした。ところが、その夜、親友は何者かに殺されて
しまう・・・。自分のせいだと自らを責めるトラクは、その殺人者を
追って旅に出る。
親友のペイルを殺したのは、魂喰らいの魔道士の一人シアジ。
その彼を追っていくことで、トラクは、彼の陰謀に巻き込まれ
自分がどうして生き霊わたりが出来るのかという過去にも
触れることになる・・・。

復讐は燃え上がる炎だぞ。おまえの心も燃やし尽くす。
そうすれば苦痛がますだけだ。そうならんように気をつけろ


これは族長、フェン・ケディンの言葉ですが・・。
まさに旅に出た時のトラクは、この復讐の炎にもえ上がらんばかり。
その炎に、レンとウルフを巻き込んでいきます。
その彼の復讐は、うまくいったとは言えずに終わっていくのですが
この復讐の旅の苦さは、トラクの心にいろんな影を落とします。
深い森の中で、トラクは、自分の父母の過去について
いろいろと知ることになります。
そして、母親の死が、自分の能力に深い関係があること
母が自分の命と引き換えに、息子を助けようとしたことを
知ることになるのです。

このことは、彼に、ひとつの出来事が、長い目をもってみれば
それのみの是非で語ることができないという厳しい事実を
突きつけます。
つまり、自分が今こうしてここにいることが、過去と深く
結びついているということが、一気に現実感をもって彼に
襲い掛かるのです。母の死は、悲しむべきこと。
しかし、母の死があったからこそ、トラクはこれまで
生き伸びて魔同士たちと闘ってこれた。
そして、今回の親友の死も、トラクにとっては非常に不幸な
事件です。しかし、その親友の死があったから、
トラクは森の奥深くまでやってきて、結果的に
さらわれていた何人もの子どもたちを救い、森にまた
命を目覚めさせた・・。原因が結果を生み、その結果がまた
次へと繋がっていくということ。人の人生において起こる
様々なことは、次々に善悪や価値観の姿を変えて
糾える縄のように繋がり、次を生み出していく・・。
例えば、悲しみさえも、やはり次に何かを生み出す力に
なるかもしれないし、ひとつの幸せが、今度は別の何かを
連れてくることもある・・。


その中で、ある意味、運命に翻弄されながら、
人は、どう生きていくべきなのか。
ここまで書き続けられてきた、この物語のシリーズとしての
厚みが、トラクに命の理の厳しさと深さを教える背景となっていて
なかなか読みごたえのある一冊になっています。

その混沌の中で、いきいきとした「命」を感じさせる
ウルフは、やはり、この物語の光です。
感受性が強いがゆえに、起こる出来事の陰の部分に
引きずられそうになるトラクですが、そのトラクの傍にいる
ウルフが、彼を光の中に引き戻す役割を果たしています。
無垢な魂の美しさと輝きは、トラクの心をいつも浄化して
彼をあるべき場所に導くように思います。
今回、ウルフは、なんとお父さんになるんです。
新しい命が生まれる・・その喜びと祝福が希望を感じさせる
いいラストになっています。次の巻では、最大の敵との
対決が待っているとか。恋人、レンとのその後も気になります。

今回読んでいて、ふと思ったのですが。
トラクが行う特殊能力の「生き霊わたり」、つまり、生き物の中に
魂だけになって入り込んでいく能力、その経験というのは
本を読むことに似ていますね。自分以外の人生、時も空間も
何もかもを越えて、その主人公の中に自分が入りこみ、
旅をする。

<生き霊わたり>をすると、自分の魂の中に、何かしるし
みたいなものが残るような気がするんだよ


これは、私も常々思っていること。
本を読むたびに、自分の中に、何かしるしが残っていく。
トラクの心に生き霊わたりをした時間の中で、すごした深い森の
気配が、まだこの心に漂っています。
トラクほど大変な想いをしなくても、生き霊わたりができることは
幸せなことですが、その分失ってしまったものもたくさんあるんでしょうねえ・・。
トラクはこの物語の中で、たった一人孤独な立場ですが
その孤独は、遠く今、この現代の孤独に繋がっているようにも思ったりします。
最終巻・・トラクはどんな苦難に立ち向かうことになるのか。
そういう意味でも、楽しみです。

おいしい本箱 http://www.oishiihonbako.jp/index_f.php

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