海に沈んだ町 三崎亜記 写真・白石ちえこ 朝日新聞出版

画像三崎さんのモチーフである、失われた町のシリーズに連なる短編集。夢の中の遊園地。海を漂流する団地。海に沈んだ町。眠りから覚めない町・・。少しずつ現実とずれるパラレルワールドが積み重なって、独特の磁場を作っている。妙に郷愁を誘う写真がいい味を出していて、一枚一枚に見入ってしまう。短編たちがいつもより少し抑えめな感じなのは、この写真とのコラボを意識してのことなのだろう。読んでいて少々物足りない気持ちはありましたが、失った片腕が疼くような、独特の空気感は健在でした。三崎さんの小説では、「何故」という所が説明されない。不条理が不条理のままにぽっかりと存在し、私たちは心のどこかに穴を作ってそこに落ちていく。幸いなことに、私たちはそこから戻ってこれる。しかし、いつも戻ってこれるとは限らないのではないか。そこはかとなくそんな予感がして、私は身震いする。

例えば、今、この時にも。リビアでは市民が空爆にあい、たくさんの人たちが死んでいく。ニュージーランドでは地震があって、恐怖に震えながら肩を寄せ合っている人たちがいる。その現場にいる人たちが、今コタツで猫など抱いてぼんやりしている私を見たら、それはまさしく現実感のない、同じ地球の上にいるとは思えないパラレルワールドに見えるだろう。そして、今このコタツにいる私にした所で、明日は別の不条理の中にいて、それがもたらす疎外感にさいなまれているかもしれないのだ。歴史は繰り返しながら転がっていくけれども、人間はそこから何も学ばない。私はここにいて、情報を見ながら胸を痛めているけれど、なんとか自分と、自分が支えなければならない生活を送ることだけで人生が終わっていく。でも、この世界で命を紡ぐのは、すべてがそんな小さな人生たちなのだから。そのたった一人の物語に寄り添おうとすることだけが、大きな間違いに対する確かな目を育てると想っている。三崎さんの物語から伝わる微かな音に耳を澄まし・・・遠い国の爆撃の音を聞こう。

2011年1月刊行
朝日新聞出版

この記事へのコメント

2011年07月04日 22:49
ERIさん、こんばんは(^^)。
これらの物語が、それぞれ同じ世界にあるのだとしたら、本当に三崎さんの設定ノートが見たいものだ!と思ってしまいます。
どの作品にも、ひそやかな郷愁があって、淋しい美しさがありましたね。
ERI
2011年07月05日 22:40
>水無月・Rさん
こんばんは!お久しぶりです(*^-^*)
三崎さんの郷愁って何なんでしょう。不条理をともに生きている共感なんでしょうか。
このレビューを久々に読んで、これは震災前だったんだなあと不思議に思いました。三崎さんの「失われた町」シリーズが震災あとどうなっていくのか。そんなことを想いました。