鉄のしぶきがはねる まはら三桃 講談社

画像読んでいて、とても主人公達が羨ましくなるような、手がうずうずする物語だった。まはらさんは、手の感覚が生み出すものに拘る人だ。『たまごを持つように』でも、弓道を追求する高校生たちが、毎日毎日手を鍛錬し、弓を放つ感覚を少しずつ確かなものにしていく姿が描かれていた。今回のこの作品は、旋盤加工という技術をテーマに、やはり自分の手で何かを掴もうとする若者たちの姿が描かれている。旋盤加工というものが、奥の深い職人芸であることは知っていたけれど、この作品の中で語られる「鉄」の美しさがとても魅力的で、思わず一気読みしてしまいました。

主人公の心は、工業高校に通う一年生。祖父は鉄工所を経営していたが、当時勤めていた工員の裏切りなどがきっかけで倒産してしまった。幼い頃から鉄工所が大好きだった心にとって、それは辛い思い出。だから旋盤には近寄るまいと想っていたのに、ふとしたことで触れてしまった鉄の重みに心奪われてしまった心は、旋盤技能を競う<ものづくりコンテスト>を、仲間たちと一緒に目指すことになる・・・。

震災で、日本の物作りを担っている工場などがたくさん被災していることを、連日報道で眼にします。日本の工業はとても繊細で複雑なものが多いだけに、一度ラインなどが停止すると大変なことになってしまう。そのあれこれを拝見していると、大変だとため息をついてしまうのですが。それと同時に、やはりその技術力が日本の日本たる所以だとも強く思います。

毎年、私は出来る限り正倉院展に行くのですが。奈良時代の職人たちが作った工芸品の素晴らしさに本当にため息が出るほど感動します。機械やロボットの無い時代に、これだけ精緻な、美しいものを作り上げることが出来た。その根気、美意識の高さ、こつこつと努力するモチベーションの持続力がひしひしと伝わってくる。その原動力は、この物語の主人公の心が感じるような、理屈ではなく身体の芯から溢れてくる、手を研ぎ澄ます喜びなんですね、きっと。私は、CMのように、頑張れ日本、とか言うのは嫌いな人間ですが。こういう、物を作る喜びを感じる場所が早く復興して欲しいとは痛切に思います。人間の感じる一番奥深い喜びの一つは、こんな風に自分の手で何かを生みだすことだと想うから。特に、日本人を救うのは、仕事やと想います。身体を動かし、手を動かし、働くことが希望になるはず。ここに描かれる物作りの卵たちの柔らかい心が、どうかまっすぐ育つ日本でありますように。

2011年2月刊行
講談社

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