ドラゴニア王国物語 みおちづる 角川書店 銀のさじシリーズ

画像これ、もっと長編でも良かったんちゃうん、と読み終わると同時に頁を閉じてため息をつき、作者に突っ込んでしまいました。面白かったんです。熱く鼓動する竜の卵を抱いて走りに走る少女のひたむきさが、ビンビンと伝わってきて、読み始めたら止まらず。途中できざす、「これは、もしかしたら・・・」という期待が、少女の希望と重なって胸の中に熱い塊を作るようでした。その塊に押されるように、前へ前へ自分の気持ちも動いていく。そんな高揚を久しぶりに味わって、とても充実した読書の時間でした。あー、もっと読みたかった。もっと、ドキドキしたかった。(しつこいなあ・・爆)

ドラゴニア王国の「走り屋」(運送業ですね)の娘、リンディは、ある日店に訪ねてきた男に一つの荷を託される。追っ手にすぐに殺されてしまった、王城の竜術師であった男の、「それで世の中が変わるんだ」という言葉に背中を押されるように、リンディは遥か彼方のルーデン村に向かって走り出す。しかし、旅は苦難の連続。旅慣れない上に、行く先々で何者かに追われるリンディ。それもそのはず、その荷物とは、王竜の卵だったのだ。王の跡継ぎ、つまり次の王の元でしか孵化しないという、王卵。一つは王城のもと、現在の王子のもとにある。リンディの持っている卵は二つ目のもの。卵は一つしか孵化しないのだ。必死で旅を続けるリンディは、ゼオンとアッシュという二人連れに出会う。二人は、卵を奪われそうになったリンディを助け、一緒にルーデンを目指す。二つ目の卵は、この世界の再生を担う王子のもとにもたらされるもの・・その卵をめぐって物語は展開します。

リンディを走らせているものは、「それで世の中が変わるんだ」という男の言葉。竜という特権を独占することで全ての利権を握る一族のせいで、国のあちこちが腐敗し、苦しむ人たちがたくさんいる。リンディの友達も、そして父親も、その苦しみの中にいる。しかし、無力な自分には何も出来ない・・そう思っていたリンディが見つけた、自分にも出来るかもしれないこと。それが、自分に託された卵を届けること。自分の中に生まれたその情熱がリンディを走らせ、ゼオンとアッシュに出会わせ、全ての人たちの運命を変えていくことになる。リンディは、知らず知らずのうちに、希望を運んでいたんですよね。そこが、とてもいいと思ったんです。ただ、ひたむきに。自分が今するべきことを、必死でやり遂げていくことが、大きな希望に繋がっていく。変革の糸を掴んだのは、リンディのほんの小さな勇気です。
この物語は、深く考え抜かれた世界観の上に構築されています。その中を、少女の勇気が光の軌跡を描いていく。そこがとても気持ち良かった。

獰猛さと叡智をあわせもち、
時空を見通す力をもつ生き物ー竜。
しかし、竜は現実を動かす力はなく、人にはそれがある。
竜術とは、
人と竜とが、お互いに侵し侵されることなく、
共に栄え合うための契約であり、ドラゴニアの智慧なのである。


これは、この物語の扉に書かれた言葉。何だか、いろんなことを考えさせられます。
私たちは、いろんな力を手に入れたけれど・・手に入れた、と思っているけれど、本当にそうなのか。今回の震災で、私たちが「想定」していた基準を、自然の力は軽く越えてきた。火の力を借りるコンビナートは焼け落ち、原子力の力を借りた原発は、制御できないままに、いまだ混乱の中にある。この物語の中で、竜を支配したと想って栄耀栄華をきわめていた一族は、一夜にしてその全てを失ってしまった。

竜は、人の手に負えるような生き物ではないわ。竜が見る世界は、人が見る世界とはちがう。・・・竜は大宇宙に最も近い生き物。大きな超意識を共有しているの。どんな竜でも動物扱いせず、尊敬をもって接しなさい。


竜、というのはファンタジーにおける王道中の王道です。どれだけ竜の物語があることか。竜というのは、人間を遥かに超える存在を象徴する生き物なんですよねえ。竜は、雲や水に深くかかわる場所には必ず存在します。チグリス・ユーフラテスあたりが発祥かといつぞや読んだ記憶がありますが、ほんと、世界中に分布します。この水、というものは私たちの命を繋ぎ、全ての生命を育み、かつ時として私たちから全てを奪い去るものでもあります。私たちとずっと共にあり、それでいて私たちの人智を軽く越えるもの・・その存在に対する畏怖の念が、竜ではないかと想うのですが。大いなる自然の力と、私たちはどのように共存していくべきなのか。今、まさに私たちが直面しているそんな問いかけも含む竜の物語でした。
ドラゴニアは、若者の力で再生への道を歩み始めます。枚数制限のせいか、そこがとても駆け足で、私はもったいないなあと思ったんですが。大きな力を持つものは、また大きなリスクを背負う。新しく王となった若い力が、立ち向かうことは、きっとたくさんあるだろう・・そんな続編があったら、また読みたいと希望してしまいます。

2011年3月刊行
角川書店

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