1/12の冒険 マリアン・マローン 橋本恵訳 ほるぷ出版

画像小さいことは、チェスタトンが「棒大なる針小」で書いていたように、ドラマチックなこと。例えば・・・この身体が、ウルトラマンサイズになってしまったとしたら。ちょっと歩けば家を踏みつぶす。山を歩けば崖崩れ。海辺を歩けば、港を壊す。迷惑この上ないですよね。(昔テレビで、ウルトラマンが怪獣と格闘するたびに、私はそれがとても気になっていた。怪獣よりも、ウルトラマンが潰してる家の方が多いかもしれん、と憂鬱になったりしていた。気が小さい子だったんです)だから、でっかくなってしまったら、ひたすら何も無いところで、どでーん、と寝てるしかないんじゃないかしらんと思うわけです。しかし、もし、この物語の主人公たちが経験しているように、13cmくらいの身長になったとしたら。うちのちっさな庭だって、立派なジャングル。そこに寝ている、うちのニャン様は、さしずめ猛獣ですね(笑)ちょい、ちょいっと爪で遊ばれでもしたら、命にも関わる大怪我ですから、何とかして彼に見つからないようにしなければいけない。体育会系の非常に機敏な彼の目をどうやって逃れるか。これは問題です。そして、庭に大量発生するバッタやでっかいカマキリに遭遇したら・・と思っただけでドキドキします。卒倒もんやなあ。あ、そう言えば、佐藤さとるさんの物語の中のコロボックル達は、バッタを飼いならして騎乗してたなあ。私には、絶対無理っ!などと、どんどん想像が膨らんで、収拾がつかなくなるくらいですが(笑)日本の昔話でも、小さなことは、常に偉大なる力を秘めています。さっき触れたそのコロボックルの物語や、ノートンの「床下の小人たち」。朽木祥さんの、「引き出しの中の家」。小さな人の活躍する好きな作品があれこれとありますが、この物語も、自分たちが小さくなって十二分の一のスケールのミニチュアハウスの中に入ってしまう・・という、これまた小さなもの好きな私の心を激しくくすぐる物語でした。(前置き長すぎ…)

アメリカのシカゴ美術館には、実際の十二分の一のスケールで作られた、豪華で細密な68部屋のソーン・ミニチュア・ルームが展示されている。シカゴに住む12歳のルーシーとジャックは、ある日、学校からシカゴ美術館の見学に行き、その部屋の裏廊下の隅で、金色の鍵を拾う。驚いたことに、その鍵は、ルーシーに魔法をもたらす秘密の鍵だった。ミニチュア・ルームのある場所でその鍵に触れると、なんと体が一気に縮み、展示の部屋にぴったりの小さな人になってしまうのだ。そのことに気付いた二人は、ミニチュアハウスの謎をさぐるため、いろいろと策を巡らせて夜の美術館の中に入り込み、一夜の大冒険を敢行する・・・。

完璧に作られたアンティークなミニチュア・ハウス、夜の美術館・・・秘密の香りがいっぱいです。美術館に夜入り込む、というだけでもわくわくするような冒険。その上、ルーシーとジャックは小さくなれる。これが、面白くないはずがない。始めは小さくなれるのはルーシーだけなんですが、そのうちルーシーが触るものは一緒に小さくなれるということを発見して、二人は一緒に小さくなったり大きくなったりしながら、ミニチュア・ルームに入り込みます。しかし、胸躍る冒険は、リスクが付き物。美術館という大きな建物の中を移動する大変さ、でっかいゴキブリとの闘いなど(!!)の、ちっさくなることによって起こる困難を、創意工夫で乗り越えていく二人の奮闘が、読みどころです。そして、これもまたお約束ですが、美術館という過去の集積のような場所がかけた魔法で、二人は小さな部屋から過去へとタイムスリップすることになります。うーん。この、「小さくなる」「ミニチュアハウスの中に入り込む」「過去に旅をする」という、心くすぐる願望が次々に展開する贅沢さといったら。
そして、タイムスリップした過去で、二人は「人」と出会います。ただ小さくなって豪華な部屋に入り込んだだけなら、二人の冒険は、それだけで終わってしまったかもしれない。でも、過去で人と出会い、会話をし、心を一瞬でも交わしたことで、冒険はぐっと重みを増します。そしてその過去は「今」と絡み合い、今、二人の周りにいる人々の過去とも繋がっていく。自分という存在が、過去と今、人と人との繋がりの中にいるものだということを、金色の鍵はそっと秘密を囁きながら二人に教えてくれる。「いくら絢爛豪華な場所であっても、そこを特別にしているのは人間なのだ」と、冒険を終えたルーシーは思う。ただの見慣れた日常であっても、そこに「在る」ものは、決して当たり前のものではなくて、今しか無い、特別なものなのだ。一歩間違えれば、帰ってこられなくなる冒険を体験したことで、ルーシーは日常が孕んでいる不思議に対する心の目を開く。これも、やっぱり物語の力。・・・が。そんな理屈は抜きにして、このドキドキのシチュエーションを、とことん楽しめるのが、この物語の魅力だと思います。


彼らのタイムスリップは、見事に彼らも、彼らの周りの人間にも、素晴らしい幸運をもたらします。見事な大団円。そのあたりが、ちょっと出来すぎ感がありますが(笑)これは私の個人的な好みですが、もう少し、「魔」の世界に触れてしまったことへの余韻というか。12歳の心に、痛みのように残るものがあるともっと好きになれたかな、と思いますが、面白い着眼点とストーリー運びにわくわくさせて貰ってとても楽しい時間でした。小さいものが大好きな人なら、見逃せない物語だと思います。ちなみに、シカゴ美術館のソーン・ミニチュア・ルームは、実在のもの。楽しいでしょうねえ。ここにも激しく行ってみたいです。

2010年12月刊行
ほるぷ出版

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