セキタン! ぶちかましてオンリー・ユー 須藤靖貴 講談社

画像何気なく手にとって、思わずハマって一気読み。これって、一番楽しい読書のあり方です。「ぶちかましてオンリー・ユー」という、ちょっと軟派なサブタイトルに似合わぬ硬派な一冊。男の純情・・なんて、すっかり古い言葉になってしまいましたが、やっぱりスポーツには純情が似合います。

主人公の大関治くんは、中3の時に謎の兄ちゃんに「力士になったらどうかな」と声をかけられます。力士なんて、夢にも思ったことがなかった彼ですが、父親を亡くして一人で働いている母を楽にしてやりたいと思う気持ちと、早く一人前になって片想いの相手である同級生の三夏に男として認められたいという想いで、相撲部屋に入門します。ここからが、非常に面白い。下っ端の下っ端である彼が、四股を踏むところから始めて、少しずつ相撲を取る面白さ、楽しさに目覚めていくのが、読んでいてワクワクします。熱いんですよ。若い身体と心が、ちゃんこも技もガンガン吸収して成長していくのが小気味いい。話のテンポも良くて、一気に読ませます。

昔はとても相撲を見るのが好きで、全場所の幕内の取組を欠かさず見てた時期もありました。先代の貴乃花の相撲なんか、必死に見ていたものです。昔は横綱が東西に二枚ずついたなあ。千代の富士の大ファンだったので、彼の連勝記録には興奮しました。個人的に若貴のあたりから相撲がおもしろくなくなってしまって、ずっかり見なくなってしまったんですが、この本を読んで、久々に相撲を見たくなり、チャンネルを合わせてみたりもしました。
相撲って、スポーツと芸能のはざまにあるような特殊な世界だと思っています。あの身体を作ること、型を継承すること、長い間かかって作られてきた世界のお約束がたくさんあること。一種歌舞伎の世界に通じるものだとも思っているのですが、歌舞伎などの芸能と一番違うのは、勝ち負けがあること。あの身体ひとつで、思い切り相手にぶつかっていくのは、非常に恐ろしいことだと思う。その恐怖心を克服するために積む稽古の壮絶なこと。いわば、フツーの中学生、一度も誰かに思い切りはたかれることもなく生きてきた男の子が、頭から相手に突っ込んで勝負に向かっていく「男」になっていく一歩一歩に胸が熱くなります。

タイトルの「セキタン」は、石炭を炊く、という相撲界の隠語で、「急ぐ」という意味だそう。まさにその通りに一心に石炭炊いて精進していた治にも、挫折が待ちかまえています。張りつめてギリギリまで頑張ってきたからこそ、その糸が一本切れてしまった時の辛さは大きい。足踏みしてしまった治に、10年前相撲を勧めてくれたナゾ兄から手紙が届きます。これをネタばれしてしまうのはやめますが、この手紙は、現実ではあり得ないこと。でも、この物語の中では、そのあり得ない奇跡が、ちゃんと生きて読み手に光を投げかけます。その奇跡を支えるこの物語の熱に、すっかりやられました。スポ根ものって、やっぱり楽しい。がんばれ!と、手に汗握って応援したくなります。

あと、いいなと思ったのが、相撲という世界の懐の深さです。サッカーも野球も、ダメな選手なんて一人もいない。でも、相撲は、「なんとなく稽古してちゃんこを食って、本場所になれば土俵に上がって勝ったり負けたり」する力士でも相撲界の端っこで生きていけるということ。サッカーや野球がアメリカ式能力主義の世界なら、相撲はこれぞ、まさしく日本らしい世界だなあと思います。何となく生きてるやつも、まばゆい光の当たるスターも内包して「まあまあ、ええやんか、それでも」と許す余地がある。年に6回も場所があるから、起死回生のチャンスも何度もある。その割には、とにかく勝つか負けるかでちゃんこを食べる順番から何から決まる能力主義でもある。頑張れば出世して、あかんかっても、「もっぺんがんばろ」と思える余地がある・・。今の社会の息苦しさを思ったら、この相撲という世界の懐の深さは、今更ですがけっこういいんちゃうか、と思います。治も、しばらく足踏みしますが、最後にもういっぺん石炭炊くぞと気持ちを新たにします。うん。この感じが、とってもいい。読後感も爽やかでした。男子にオススメの本です。あと、物語の中に出てくるちゃんこが、たまらなく美味しそうなんですよ。「かわいがり」のあとに食べる湯豆腐。あー、涎が出てきそう・・でも、かわいがられるのは、いやだなあ(笑)体重増加に悩むこの季節には毒でもある一冊です。

2011年9月刊行
講談社

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この記事へのコメント

須藤靖貴
2013年08月01日 20:55
 ありがとうございます! 著者の須藤靖貴です。嬉しいかぎりです!
ERI
2013年08月05日 01:10
>須藤靖貴先生
コメントありがとうございます!こちらこそレビューを読んで頂いて嬉しいです。元気を貰える作品に出会えてとても幸せです。