本へのとびら 岩波少年文庫を語る 宮崎駿 岩波新書

画像年に1回か2回、銀座にある教文館ナルニア国という、子どもの本屋さんに行きます。ここは、品ぞろえが素晴らしいんですよ。子どもの本、YAに対する深い理解があって作られている本棚だということがよくわかります。ここでしか買えないテキストや研究書などもあるので、行くと必ず散財してしまうことになるのですが、そこにいつもたくさん並べてあるのが、岩波少年文庫。図書館にも当たり前のようにたくさんあるのですが、少年文庫だけを集めて揃えてあるわけではないので、なかなか一覧では見られないんですね。じっくりとその作品群を眺めていると、これはほんとに大切な、日本の児童文学における財産だと思います。日本人は外国文学が大好きですよね。これはいろんな方が言っておられることだけれども、翻訳するという作業を通して、私たち日本人は様々な文化の花を咲かせてきた。その作業を児童文学という分野で確固たる仕事として積み上げてきた役割が、岩波少年文庫にはあると思う・・などということは、私がいう必要もない、当たり前のこと(笑)私が今、その本たちを前にして思うのは、この文庫を子どもの頃の自分の目の前にずらっと並べてやりたいということなんですよ。悲しいことに、この岩波少年文庫は、私が通っていた小学校にはそろっていなかった。なんたること!ですよねえ・・。だから、今すこしずつその穴を埋めようと思っているところなので、この宮崎駿監督のオススメ本50冊の中身を楽しみにしていました。

でも、読んで面白かったのは、そのオススメ本のところではなく、「自分の一冊にめぐりあう」という、自分の読書観を語っておられるところでした。なぜ、子どもの本に惹かれていくのか。宮崎さんは、若いころ大人の文学を読もうとしたけれども、大人の文学の世界の捉え方の残酷さに耐えられなかった。「児童文学はやり直しがきく話」であり、自分の脆弱な精神に合っていた、と述べておられます。脆弱、という言葉は多分に宮崎監督の韜晦が含まれていると思うのですが、同じく児童文学大好きの私には、うんうんと胸に落ちるものがありますね。私は若い頃は大人の文学ばかり読んでいたんですよね。でも、年を重ねれば重ねるほど、児童文学に惹かれていく自分がいます。この世界は残酷に満ち溢れていて、不条理は私たちのすぐ横で口を開けて待っている。もがいても、もがいても抜け出せない沼に足をとられて動けないこともある。その中にいて、もう一度袋小路の絶望を読みたくない時があるんですよね。ナウシカのように、腐海に飲み込まれていく現実のぎりぎりの場所にいても、その現実の向こうにあるものを見たい。目に見えない、遥かなもの。耳を澄ませ、感じる心を全開にしたときに流れ込んでくる、美しい気配のようなもの。暗闇の彼方に見える星の光や、あはは、と笑ったときに感じるあったかいもの。そんなものが欲しい。それは逃避といえばそうなのかもしれないんですが、やっぱり、清水真砂子さんのおっしゃるように、児童文学の持つ「幸せに向かう力」に惹かれているのだと思います。こんな時代でも、人間がどんなに愚かでも、過ちを果てしなく繰り返す生き物でも、それでも生きていて良かったと思う瞬間があれば、私たちは前を向けるのではないか。そう思いたいんですよ。私は児童文学をあれこれ読んでいろんなことを書き散らしていますが、赤木かん子さんのように子どもの視点から本を語るということが出来ない。あくまでも、自分の見る自分の心に写る風景しか語れない。そうか・・私、自分のために、このブログ書いてるんだなと、今更ながら思ったりしました。

そんな自分勝手な私でも、やはり次世代に生きる子どもたちのことは、いつもとても気になります。宮崎監督のおっしゃるように、本を読んだとて賢くなるわけでもなければ、立派になるわけでもありません。それは、人一倍本を読んできた私が言うのだから間違いはない(笑)でも、しんどい時、もうこの坂が越えられない、と思った時に、逃避でもなんでもいいから自分を別世界に連れていってくれる一冊を持っているかどうか、そのわずかな違いが生きるしんどさを和らげるということはあると思うんですよ。この本読んでる時だけは、何もかも忘れられる、という一冊。その一冊は、心の荷物を、ちょこっと一緒に持ってくれたりする。その「ちょこっと」が大事だと思うことが最近多いです。その一冊に子どもたちが出会って欲しいという想いは、本を愛するものとしてどうしても持ってしまう。特にこの本で、宮崎監督が最後におっしゃっているように、厳しい時代が始まってしまった今は特にそうです。絶望や生きにくさばかりが見えるこの時代の中で、物語はどんな力を持っているのか。ファンタジーを今は作れない、と宮崎監督はおっしゃっています。何を作っても嘘くさくなってしまうと。そんな時に、この少年文庫を読みなおした宮崎監督の想いが、伝わってくる本です。戦争で焦土と化し、すべてを失った時に企画され、発刊されていったこの少年文庫を作り上げていった方達の想いが、やはりここには込められているように思う。これから何を子どもたちに残すのか。それは、やはり大人である私たちの責任ですもんね。ファンタジーとは想像する力です。その力を、これからを生きる子どもたちに持って欲しいと願う。想像する力は、希望です。思い描くことから、全ては始まると思うから。私も、遅まきながら、監督とともにこの文庫を読み直していこう。そう思う一冊でした。

2011年10月刊行
岩波書店

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