相田家のグッドバイ 森博嗣 幻冬社

画像これは家族の物語です。殺人も、事件も、何にも起こりません。相田家という、昭和を生きた、ごくごくまっとうな、真面目な家族の日々を、淡々と綴ってあるだけ。でも、これがもう、見事にミステリーなんですよ。それぞれの家庭は、それぞれの価値観で出来ている社会の最小単位で、いわば密室。「家」というハコに入ってしまうと、そこでどんな会話が交わされ、どんな食事を取っているのかも、よそからは見えません。一つの家族が、どんなメンバーで成り立ち、お互いの相互作用で、どんな価値観を作り上げ、生き、死んでいくのか。そのを、見事に書きあげてあります。磨き上げられた「普通」に、ドキドキする。とても、ミステリアスです。細部は神に宿る、とこういう物語を読むとしみじみ思います。

相田家は、両親と二人の子ども、といういわゆる標準家庭です。でも、皆、標準どころじゃなくて、けっこう曲者ぞろい。まあ、まず「標準」や「普通」なんて、この世の何処にもあり得ないんですが。あくまでも緻密で硬質なテクスチャーがほのかなユーモアも感じさせて、面白い味わいです。奇妙な味なんですが、それが「異質」というとことには向かわないんですよね。読み進むうちに、相田家の価値観に、自分もハマっていく・・そんな共感さえ呼び起します。相田家の価値観は、人に媚びない。争わないけれど、慣れ合いもしない。こつこつと努力しながら、それを人には押し付けない。そこに、読んでいてほっとする想いでした。人は、一人で生まれ、一人で死んでいく。と同時に、誰かと共に生き、助け合うということ無しには、生きてはいけない。これは、相反することでもなんでもなく、ただ、ありのままにそうなんだ、ということが感じられます。何一つ捨てずに、きっちりと整理整頓して溜めこんでいた母の全てを飲み込んでいた家が、最後に更地になってしまう・・溜めこみ方が尋常ではないだけに、そのシーンに胸を突かれます。それだけに無常を感じさせる読後感なんですが、それが悲しみではなく、ほのかな幸福感に包まれているのが印象的でした。それでいいんだよね、と思う。そして、そうあるべきだよな、とも思う。

それにしても、様々な小説を書かれる方です。年々驚かされることが、嬉しい。森文体、というものが確立してきたように思います。進化してらっしゃるなあ。素晴らしいです。

幻冬舎 2012年2月刊行

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 2

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
ナイス

この記事へのコメント