ジェンナ 奇跡を生きる少女 メアリ・E・ピアソン 三辺律子訳 小学館SUPER YA

画像ここ一週間ばかり、パソコンの調子がいまいちで、正常終了が出来なくなっていました。そこで、今日は一日何だかんだとメンテナンスをしていたのですが・・。結局「システムの復元」で、過去の状態に戻すという安易な方法を選択してしまいました。この手は時折使うんですが、便利ですよね。バックアップはパソコンでは大切です。しかし、それが人間だったらどうなのか。バイオテクノロジーによる生命操作で復元された少女であるジェンナが、「自分は何者なのか」と問い続ける、とても読み応えのある物語でした。

事故で一年以上意識不明の状態から目覚めた17歳のジェンナ。しかし、記憶はほとんどなく、歩くのもおぼつかない。殺風景な部屋に、異常なくらい彼女を監視する両親。ジェンナに冷たい眼差しを向ける祖母のリリー。違和感の中で少しずつ記憶は甦るものの、ディスクで見る過去の自分とは距離を感じるばかり。実は彼女は、交通事故で身体のほとんどを失い、脳の10%以外はすべてバイオジェルによる復元された存在であり、意識と記憶は元の彼女からアップロードされたものだったのだ・・・。

「自分は何者なのか」という問いは、ジェンナを苦しめます。手も足も、何もかも作り物の自分は、偽物なのではないか。わたし自身の魂はどこにあるのか。10%の自分・・でも、それが例えば9%なら、8%の自分とはどう違うのか。彼女の状況は特殊なんですが、その問いかけは胸に刺さります。自分が自分と思えない時、自分だけが全てから取り残されてしまうように思える時・・やっぱり、私たちはこの問いかけに取りつかれます。ジェンナの苦しみに対する答えは、そう簡単に「これ」と言葉に出来るようなものではありません。私たちはいつも答えのない問いの中で生きている。私たちの生は、自分で獲得したものではなく、どこからか理由なく与えられる、死と同様、理不尽なものだから・・。答えのないままに、彼女に「生きたい」と想わせるものは何かを、この物語は繊細に描いていきます。私には、そこが印象的でした。

ブルーの洋服ばかりがかけられた彼女の部屋は、まるでパソコンのディスプレイのようで命の色が無い。その彼女を照らし、色づかせていくのは、同じ時間を生きている他の命の輝きなんですよね。お隣のべンダーさんのところにやってくる小鳥の羽の美しさ。「あなたのこと好きよ、ジェンナ」と言ってくれる、同じクラスのアリーズの声。やっぱり過去に傷ついている少年、イーサンと過ごす時に感じる日の光。キスするときのときめきは、心臓がない彼女の胸にもやってきます。ジェンナが、命の喜びを感じる情景が、とても美しい。彼女は科学技術の奇跡によって生き返った少女なんですが、本当の奇跡は、こんな瞬間を生きていることなんだということに気づかされます。大義名分でもなんでもない、どこにでもある奇跡。紙で出来た本をめくる時、ジェンナは気づきます。

本のページをめくって、言葉に目を走らせ、その行間を読むとき、そうしたことを考える時間がある。そうした考えはどこにも書いていないし、バイオチップにアップロードされてもいない。わたしだけのもので、ほかのだれのものでもない。



誰かと関わり、心を交わし、たった一つの想いを胸に抱きしめる時を積み重ねること。それが自分を作っていく。そして、それはやり直しがきかない一回きりの時間からこそ、「生」なのだと、ジェンナは両親が隠していた秘密を知った時に思い知ります。「死ねなかったら、本当には生きられない」というジェンナの叫びが、命の切なさと輝きを照らし出すようで、このラストに向けての流れには引き込まれました。彼女を生き返らせてしまう親の気持ちも、その親の愛情に苦しむジェンナの気持ちも、わかる・・わかるだけに辛い物語ではあるのですが。この小学館のSUPER YAのシリーズは面白い本が多いのですが、今回も、さすが!という感じです。


余談ですが、これも今日たまたま猫と一緒に3階に上がったとき、萩尾望都さんの『A-A´』を見つけて読みふけってしまったんです。これがまた、クローンによる再生というSFで、この物語とテーマがかぶるんですよね。辺境の星で事故にあって死んでしまったアデラドという一角獣種の少女(この、一角獣種のシリーズ、大好きなんですよ!)のクローンが、再生されてまたその星にやってくる。彼女を愛していたレグ・ホーンは、クローン体であるアデラドを受け入れることが出来なくて苦しむ・・という物語です。これが短編なんですけど、胸にすごく沁みる、素晴らしい物語なんですよ。人工の変異種で、知能は高いのに、非常に感情表現が不器用な一角獣種のアデラド。彼女の目にだけ映る風景が、この上無く美しいんです。この物語の初出は1981年。うーん・・やはり、萩尾さんは天才だわ・・。長い余談を書いてしまいました。このマンガもオススメです。

2012年2月刊行
小学館

この記事へのコメント

ぱせり
2012年04月27日 16:52
ERIさんの一言一言に頷くばかりです。
わたしはちっとも書けていなくて・・・

>答えのないままに、彼女に「生きたい」と想わせるものは何かを、この物語は繊細に描いていきます。私には、そこが印象的でした。

ほんとうにそうでした。
答えは出ないけれど、やっぱり若い彼女には「生きたい」であってほしいし、その丁寧さ、繊細さに圧倒されました。

>本当の奇跡は、こんな瞬間を生きていることなんだということに気づかされます。

そのとおりです。
生きていれば答えがないのはあたりまえですね。
どんな答えを出してもベストではないのもあたりまえだし・・・そのなかで、まっすぐ「生きていることが奇跡」というERIさんの言葉、ほんとうにそう、この物語の一番大切なことはそれじゃない、と思いました。

この本に出会えてよかった、そして、ERIさんのレビューを読めてよかったです。

萩尾望都さんの『A-A´』読んでみたいです。まずはブックオフあたりをあたってみます(ケチです~^^)
ERI
2012年04月27日 23:01
>ぱせりさん 私、この本を読みながら、「哲学者とオオカミ」を想い出していました。私たち人間は、「時間」という概念に縛られて生きていて、常に、現在は未来の準備期間という意識である。視点はいつも先を見ている、一方、動物は、「現在」しかない。今を思う存分感じ、生きている。ジェンナの煌めく「今」に、もしかしたら答えがあるのかもしれないですね。言葉にはならないけれど・・。

『A-A´』ぜひ読んでみてください(*^-^*)いろんな版が出ているので、ブックオフにはあるかもしれません。あと、萩尾さんの『銀の三角』も、クローンが鍵になる、緻密でとても壮大なSFです。そこに出てくるのは銀の三角種という、美しい、音楽に長けた種族。絶対にぱせりさん、お好きなはずですよ~! 一緒に探してみてください。