![]() 第51回の江戸川乱歩賞受賞作。つまりこれがデビュー作という 新人さんなのだが、これが見事な社会派ミステリーに仕上がっている。 少年犯罪を描いたミステリーは多いけれども、見事なプロットで加害者と 被害者の両面の立場から少年犯罪と少年法という問題にここまで切り込んだ 作品は少なかったのではないかな。少年犯罪を犯してしまった加害者の家族、 という視点で描いた石田衣良の「うくつしい子ども」と並んで、心に残る一作だと 感じた。 主人公は、桧山という幼い娘と二人で暮らす、フランチャイズのコーヒー店の店主。 彼は、妻を13歳の少年達に殺されてしまった過去を持っている。その傷は癒えないまま、 幼い娘の成長を楽しみにひたすら日々をすごす彼の近くで、また事件がおこる。 妻を殺した少年の一人が、彼の店の近くの公園で殺害されてしまったのだ。 桧山を疑ってやってきた刑事の口からその事実を聞かされた彼の心の中に、 過去の事件の真実を知りたいという欲求が大きく燃え盛る。13歳の犯罪ということで 少年法に守られた彼の妻の事件は、被害者である彼にはほとんどのことが知らされて いなかった。彼らはなぜ妻を殺したのか?そして、彼らは本当に更生したのか? 今何を思っていきているのか?とり憑かれたように事件の真相を追う彼の周りで また新たな事件が起こり、隠された真実があらわになっていく・・。 以下ネタバレ。気をつけてくださいね。 犯罪を起こして、人のかけがえのない命を奪ってしまった。その罪をどうやって償うのか。 そして、被害者の家族はその悲しみや憎しみを、どうやって癒せばよいのか。 成人の事件なら、裁判を被害者、つまり残された家族も傍聴でき、事件の詳細を 知ることもできる。しかし、少年の場合はそうはいかない。少年、ということで 幾重にも守られているからだ。被害者側は、犯人の姿も声も聞くことはなく、 真実をきちんと知らされることもないままに、その後の長い時間を耐えていかねばならない。 確かにこれは理不尽だ。被害者側はマスコミの攻勢にさらせれ、被害者であるにもかかわらず 様々なことをかかれ、写真を撮られる。私はあの被害者の顔を大きく載せる マスコミの報道に、いつも辛い思いをする。コンクリート殺人のとき、長崎で起こった 同級生に殺された少女のとき、あの神戸の連続殺人のとき。特にコンクリート殺人の ときは、どんなふうに少年達が少女を虐待したかが、繰り返して報道された。 確かにその事実は衝撃を与えるが、それを眼にする親御さんの気持ちはどんなに 辛いものだろう。同じ親として、察するに余りある。あの後、少女の母親は心を 病んでしまわれたらしい。当然の帰結である。その当然の帰結に対して何の ケアも配慮もなされない今のありかたには、心から寒気を覚える。 世の中は、被害者に恐ろしく冷たい。 冷たいように、世の中のシステムが出来上がっているのだ。 これは、殺人事件だけの話ではなく、交通事故でも同じ。 愛しい人を殺された家族は、加害者の謝罪の言葉のかわりに、保険会社 の交渉人の「なんとか保険金を値切ろう」とする数々の言葉を聴くことになるのだから・・。 例えば大黒柱である夫を亡くした家族が、その後の人生を十分に暮らしていける 賠償金を手にするのか、というとそれは決してそうではないということを、 世の中のどれくらいの人が知っているだろう。 本当に様々な条件を出されて値切られる。大切な命の値段を値切られる、 それがどんなに被害者の家族の心を傷つけるのか、というところには決して 踏み込まれることのないままに。 しかし、この作品は、一番の被害者である妻が、かって加害者でもあった、という 真実で、その視点をがらっと変える。 彼の妻は自分の犯した犯罪についてどのように考えていたのか。 どんなに苦しんでいたのか。どんな償いをしようと思っていたのか・・。 生前の妻の言動を思い出し、様々なことに思い当たった桧山は、 妻の心によりそおうとする。そして、最後に二重三重にもからんだ憎悪の 鎖を解き放ったのは、妻の「つぐない」の行動だった・・。 自分の罪をわすれないこと。被害者やその家族に許してもらえるまで 償い続けること。言ってしまえばこんなに簡単なことがきっちり出来ない のは、なぜなのか?それが徹底されるシステムを作ることが、被害者に とっても、そしてその後生きていく加害者の側にとっても、大切なこと なんじゃないのか。その問いかけが眼を離せないストーリーとして 構築されていることに、好感を持った。一時間半で一気読みしてしまった 最近珍しくはまった本格ミステリーだった。 おいしい本箱 → http://www.oishiihonbako.jp/detail.php?book_no=000562 |
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薬丸岳 『天使のナイフ』最近の 江戸川乱歩賞にはなかったひさびさの傑作だ
刑事罰の対象にならない少年たちに妻を惨殺された桧山貴志。「殺してやりたい」と思わず憎しみの叫びをあげる。殺人者に対する怨みを晴らすすべがない、少年法の保護主義に対するやりばのない怒りが読者の共感を誘う。 ...続きを見る |
日記風雑読書きなぐり 2005/10/23 14:41 |
薬丸岳「天使のナイフ」
文学賞と一口に言いますが、実はこんなに様々な賞 があります。 今日ご紹介するこの本は、2005年度「江戸川乱歩賞」を受賞した作品です。 ...続きを見る |
イイオンナの為の「本ジャンキー」道 2005/11/25 01:11 |
「天使のナイフ」薬丸岳
タイトル:天使のナイフ 著者 :薬丸岳 出版社 :講談社 読書期間:2006/10/24 お勧め度:★★★★★ ...続きを見る |
AOCHAN-Blog 2006/11/09 21:56 |
天使のナイフ 薬丸岳(やくまるがく)
装幀は多田和博。第51回江戸川乱歩賞受賞作。 ...続きを見る |
粋な提案 2006/11/11 23:54 |
天使のナイフ
天使のナイフ 薬丸 岳 ...続きを見る |
読書三昧 2008/06/30 23:06 |
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最近の江戸川乱歩賞ってあてにならなかったのだけれどこれはまさに賞にふさわしい。『13階段』いらいですね。 |
よっちゃん 2005/10/23 14:38 |
TBありがとうございます。 |
bookbookbook 2005/11/26 01:28 |
「闇の底」の前に、こちらもトラバ、のみのつもりでしたが、やっぱりカキコミしちゃいます。考えてみるとデビュー作なのに、見事なエンタテインメントの社会派ミステリー、しかも考えさせられる内容でした。2作目もよかったので、びっくりしましたね。 |
藍色 2006/11/12 00:08 |
>藍色さん |
ERI 2006/11/12 22:07 |
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