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zoom RSS アンネ・フランクの記憶 小川洋子 角川書店

<<   作成日時 : 2006/04/03 23:44   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 2 / トラックバック 0 / コメント 2

画像前に読んだこの本が「沈黙博物館」を読んでから
ず〜っと気になっていて、読み返そう、と思っていた。
まあ、それからどれだけ時がたったのよ・・。
あっという間に年をとっちゃうはずだわ(汗)
これは月並な感慨なんですが、本当に年齢を
重ねれば重ねるほど時はあっという間に駆け抜けて
いってしまう・・。ああ、こわいこわい・・。

とまあ繰言はさておいて、やはりこの紀行文は
小川さんの作品を読むならば、読んでおかなきゃ
いかんものなんだな、と・・。
小川さんが小説を書くようになった原体験は、
アンネ・フランクの「アンネの日記」にあるらしい。
アンネのことを「悲劇の少女」というのではなしに、
自分の一番の友達のような感慨で好きになり、
同じ年頃の持つ様々な心の揺れに共感し、
自分も同じように日記を書き出したことが、
小説を書くことに繋がったらしい。
いや、私も同じことをしましたよ。
文庫本の「アンネの日記」をお小遣いで買って、
そりゃもうボロボロになるまで読みました。
ほんでもって、こっそりお気に入りのノートに
「キティ」と名づけて、毎日日記を書いたのでした・・。
今から思い返すと、もう顔から火がでるほどイタい
日記で、そのあまりのできばえに、私は小説家にはなれんかった
という大きな大きな違いはありますが。
「アンネと友達になりたい」と、思ったなあと・・・。

この大きすぎる運命を背負ったアンネを、そういう年頃であった
という事を考えても、同じく生きているたった一人の少女と
して自分に引き寄せていたことが小川さんの出発点にあった、
というところに感慨を覚えました。
先日「ユダヤ人という存在」という池内紀さんの著書を読んだのですが。
この博識にして、知性の塊のような方をしても、なぜユダヤ人の大量虐殺
ということがドイツで起こってしまったのか、ということに対する明確な
解答は見出せないらしい。池内さんもその著書で、ハイネやカフカ、
カール・クラウス、カネッティのようなユダヤ系の小説家や思想家に
ついて、詳細にその仕事を述べられている。
(この池内さんのカフカについての著作は、とても魅力的です)
なぜ、という問いを大局からしようと思っても、何かが漏れ落ちてしまう。
また、その「なぜか」という問いに歴史的な理由をつけるとしても、
やはり残るのは、そういう残虐性を秘めている人間そのものに対する
疑問や問いかけなんだろう。漠然とした「戦争は・・。」
や、「差別は・・」という問いかけではなく、その時代に生きた人
一人ひとりの生涯や生き方に寄り添うことで、私達はとにかく
そこに生きていた人間の記憶を自分に刻むことができる。
まずそこから出発すること・・。これしかないのかもしれないなあ。
何か一つの切り口でばっさりと多くの人を切り捨てることは、
ごくごく身近にいくらでもあることで。
私だって、いつ切り捨てられるかわからない。
もしくは切り捨てる側にまわってしまうかもしれない。
それはユダヤ人、かもしれないし、または有色人種、という
ことかもしれない、宗教の違い、生き方の違い、性別の違い・・。
それはもういろんな切り口があって、やろうと思えばどこまでも
できるんだから。
そこに生きていたのは、たった一人の
「アンネ・フランク」という、聡明な、感受性の強い、髪を毎日
巻いて寝るようなおしゃれな少女であった、ということを心に刻めるのか、
っていうことなんでしょうね、すべての出発点は・・。

少女の頃からずっと思い続けていたアンネに出会う旅をする
小川さんは、それこそ少女のよう。生前のアンネを知り、助けていた
二人の方に会うくだりは、もう読むほうも緊張して、涙してしまう
ような初々しさです。アンネの友人であったジャクリーヌさん、
アンネの一家をずっと影ながら支援し、日記を大切に保管していた
ミープさん、二人とも長らくそのことについては沈黙を守っておられた
らしい。アンネのことを得意そうに語ることで、英雄扱いされたくない、
その時代に生きていたたくさんのユダヤ人の方たちに申し訳ない、と。
それを押して語ってくれたお二人に対する尊敬の気持ちを、
小川さんとわけあってしまった。

そして、やはり圧巻なのは、アウシュビッツの光景です。
これはもう読んでいただくしかないのですが。
そのドイツ人らしい規則性を持つ風景に、
「美しさ」を感じてしまうことにショックをうけてしまうと・・。
この収容所に収められているモノたちが無言で訴えていること。
その一つ一つがはらんでいる物語を、沈黙のうちに聞き取った
小川さんの記憶が、「沈黙博物館」に結晶していったんだ、と
いうことがよくわかる。

「わたしは一人の少女に導かれ、顔も名前も知らないおびただしい
人々の死の名残りを、確かに記憶に刻み付けて帰ってきたのだ」

小川さんらしい、穏やかな語り口。
感情に流されるのではなく、そこにあるものをデッサンするように
刻み付けるような文章。これは「密やかな結晶」の後書で
井坂洋子さんが言っておられるように、小川さんの仕事の
見事な結実であると思う。たくさんの人に読んでいただきたい本です。

http://www.oishiihonbako.jp/detail.php?book_no=001041





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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
こんにちは♪
小川さんを知ったときに彼女がアンネ・フランクに傾倒していることを知りました。
そしてこの本を探しましたがもう絶版なのか、どこにもなかったの(涙)
でも、どうしても読みたくて、ヤフーのusedを買いました(プチ潔癖症なので他人の読んだ本は好きじゃないんだけど・・)
私もその昔「アンネの日記」を読んで以来日記に名前をつけて買いていたクチです(笑)
私が映画にしろ読書にしろナチスもの、ユダヤものに引かれる(自分ではライフワークだと思ってる)のは「アンネの日記」との出会いがあったからだと思っています。
この本の装丁ってたしかアンネの日記と同じピンクのチェックじゃなかったですか?
usedなのが残念ですが、とっても大切な本です!
ミチ
URL
2006/04/04 21:43
>ミチさん
コメントありがとうございます。ミチさんもアンネ仲間だったとは・・。
私が読んだのは、単行本の方です。クリーム色の表紙に、赤い靴がポツンと一つかかれているもので、美しい装丁です。本当はこちらの画像をアップしたかったのですが・・。絶版になっているところが多くて、画像がありませんでした。しかし、アマゾンでは買えるようです。
アンネと小川さんの魂が出会うような、とても気持ちのこもったいい本ですよね。小川さんの最新エッセイ「犬のしっぽを撫でながら」にもアンネの話がのっているそうなので、読むのを楽しみにしております。
ERI
2006/04/05 21:26

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