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zoom RSS 薬指の標本 小川洋子 新潮文庫

<<   作成日時 : 2006/09/28 22:50   >>

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画像この小説が、フランスで映画化され、公開されるそうですね。
小川さんの小説はフランスで人気があるそうで・・。
フランスの翻訳エージェントに招待されて渡欧した話をエッセイで
読みましたが、なんだかそれ、わかるような気がします。
あの繊細な文体で「場」を作り上げていく感じが、フランス人の好みに
あってると思う・・。見たい〜!!そこで今日これを買って読み直してみました。

主人公の「わたし」(最後まで名前は呼ばれない。君、お嬢さん、あなた・・とだけ)
は、サイダーを造る工場に勤めているのだが、ある日ベルトコンベアーの継ぎ目に
薬指をはさんで、先端を失ってしまう。工場をやめた「わたし」は、さまよった挙句に
ある街で「標本室」なるものに出会う。そこは、望むものをすべて標本にするところ。
家族すべてを失った少女が、火事の焼け跡からとってきたきのこ。
死んだ恋人が残した曲。死んでしまった文鳥の骨・・・。
訪れる人は、それらをただそこに封じ込めるために標本室を訪れる。
そこには弟子丸という男の技師が一人いて、「わたし」を事務員に雇いいれる。
時間がとまったかのようなそこで、弟子丸と「わたし」の紡ぐひそやかな日々が
始まる・・・。

標本、古いピアノ、朽ちかけた館、老女・・。と、小川さんのいつもの小道具が
いっぱいなんだが、特筆すべきは、やはり弟子丸が「わたし」に履かせる
黒いパンプス。ぴったりと少女(だと私は思う。)の足に吸い付くように
フイットする、なめらかな曲線を描く靴。弟子丸は、「わたし」にその靴をはかせて
乾いて誰も使わない浴室で、彼女をただ、抱きしめる。それも慈しむようにではなく、
ただ自分の内に彼女を取り込むように。その靴は、いつも履いていなければならない。
その靴は少女の足にぴったりと張り付いて、彼女の足を侵していく・・・。
そこはかとないエロスの匂い。ギリギリまで抑えられた官能。
靴は彼女を縛るいましめであり、同時に彼女に常に自分の肉体を確認させる
「生」の象徴のようでもある。小川さんの書くエロスは、ここではひっそりと
雨にぬれた小動物のように物語の奥底に潜んでいる。その冷たい表面を
そっとなでると、ひんやりとして、それでいて皮の内にある「肉」のおおののきが
伝わってくるような生々しさもある・・・。この手触りは「死」に似ているかもしれない。
体の奥底に沈んでいる、滅びの匂い。滅ぶからこそそこに「ある」と思えるのかもしれない
私たちの生。彼女は薬指を失ったときに、自分の肉体の危うさを知った。
そして、そのあやふやな肉体に潜む「生」のあやうさも・・・。

もしかしたら、ここにたどりついた彼女は薬指の先だけの存在だったのかもしれない。
その彼女に靴を履かせることで、弟子丸はやっと彼女の肉体を抱きしめる・・。
そんなことまで連想してしまうほど、この中の「わたし」ははかない。
そして、最後、彼女は自ら標本になることを望む。
「わたしは彼の視線をいっぱいに浴びるのだ」
閉じ込められることによって確かな存在になろうとする「わたし」。
すべてを放棄するようでありながら、それはこのはかない世界にいて
滅んでいくことへの抗いなのかもしれない。


丁寧に言葉を選んでくもの巣を紡いでいくような小川さんのミクロの世界は
他の誰も書けない玲瓏とした詩情に満ちている。
死と冷たいエロスの匂いの中に旅する私は、その世界からこちらを見た時の
「目」を一瞬獲得するような気がする。閉塞の中から見る青空と花と、「生」の
鮮やかさは、こちらにいては気づくことのない鮮やかさだ。
その一瞬を見ることは、まさに私にとっては物語を読む喜び。
小川さんがかけてくれる魔法だなあ・・・。
この魔法を、果たして映画はどんな風にみせてくれるのか。
楽しみです。

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☆☆☆・・ 薬指の標本 ...続きを見る
+++ こんな一冊 +++
2006/09/29 07:00
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〜Books Journey〜
2007/09/28 01:12
『薬指の標本』/小川洋子 ○
痛い痛い痛いぃ〜・・・。 すみません、多分小川洋子さんは、痛くない描写をしたと思うんですが、水無月・Rは小心者でして、痛いのは苦手なのですよ・・・。主人公・私の薬指の先端を失ったそのいきさつのシーンが、現実味が薄かったのに、なんか自分の身に置き換えてしまって、痛くて痛くて・・・。サイダーを桃色に染めて落ちてゆく肉片・・・キャー、勘弁してください! ...続きを見る
蒼のほとりで書に溺れ。
2009/06/24 21:51

コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
そうですか。フランスで。
歌うような囁くようなフランス語は、この物語の情感を盛り上げるでしょうね。
「標本」「黒い靴」と閉じ込めるものばかり出てくるのに
何故か解放されたような心地にもさせられる物語でした。
ふらっと
2006/09/29 07:03
>ふらっとさん
「心地」。そう、心地、という言葉はこの物語にふさわしいですね。
ひそやかに心にあるものを読ませてもらってる心地かな。
こうやって綴られることで、それが解き放たれていくのかもしれませんね・・。
ERI
2006/09/30 01:47
映画見に行かれたんですねぇ〜。いいなぁ。果たしてTSUTAYAでDVD出ているでしょうか??出ていない気がするなぁ。ほんとフランス映画にふさわしくて、でもふさわしいだけにマイナーな感じですよね。
DVDちょっと探してみます!!
やぎっちょ
2007/07/18 00:01
>やぎっちょさん
映画ね、とても良かったんで、是非みてくださいね。
女優さんもとても好みでした〜♪アメリカハリウッド系の映画は苦手なんですけど。小川さんの世界を見事に描き出してまして、素晴らしかった。
小川さん、フランスで人気があるそうです。そうやろなあ・・とちょっと鼻が高い気持ちになるのは、何故?(笑)
ERI
2007/07/19 01:34

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