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help リーダーに追加 RSS 失われた町 三崎亜記 集英社

<<   作成日時 : 2006/12/29 01:10   >>

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画像三崎さんの本を読むのは、これで三冊目かな。
この「失われた町」、がっつり長編なんですが、彼の力量が伺える
力作やな、と思います。設定がね、面白いですね。「バスジャック」も
設定がピカ一でしたが、この一つの町が丸ごと失われるという発想が
秀逸です。楳図かずおの「漂流教室」は学校がそのまま空間移動
してしまう話でしたが、これは町の人間のみがいなくなってしまう、という
設定。しかも、その消失には「町」の意志が働いているという・・・。

物語は、今まさに消失を迎えようとしている町の様子から始まる。
なぜか30年に一度の周期で「消失」を迎えてしまう町。
それがどこか、なぜそこが選ばれるのかはわからない。
しかし、その「町」に住む人間は、消失から免れない。しかも消失して
しまった町の記憶は、汚染されているために徹底的に排除される運命に
あるのだ。それこそ名前さえも。そして、愛する人がいなくなってしまった
ことを嘆き悲しむことも、また汚染を呼ぶことになるので許されないのである。
ずっと繰り返されるこの悲劇に、「消失」は忌み嫌われ、それに対処する
管理委員会までもが差別の対象になってしまう世界。
大切な人、愛する人を失ってしまった人々は、その事実をどう受け止め、
その後を生きていくのか・・・。残されたものの戦いが始まる。

「町」が意志を持つ、という設定が、まず面白い。
それが人をどのように消失させるのか、なぜ人のみを消失させ、
しかもその事を悲しむことも許さないのか、そういう理由は説明されない。
ただ、その事実が積み重なってきた過去から学んだ対症療法でしか、
人間はこの理不尽さに対応することができていないのだ。
この物語は、その徹底的な理不尽さに、何らかの形で戦いを挑む人たちが
描かれる。消失した町で、たった一人残った、消滅耐性を持つ女、佳子。
消失した月ヶ瀬の町に囚われ続け、記憶をなくした和宏に付き添う茜。
失った恋人の思いと意志を継ぐために、必死の思いで生きている由佳・・。

これは、大きな「喪失」の物語ですね。
ぽっかりと無くなってしまう。ただ、失われる。そこにあった形跡さえも消されて
いく。小川洋子さんの「密やかな結晶」を思い出してしまいました。
あれは、「言葉」を喪失していく物語だけれど、これは「人間」が消失してしまう。
小川さんは見慣れた言葉を積み上げて、その喪失をイメージで語っていき、
三崎さんは、自分の中の架空の国や社会のあり方や、歴史を積み重ねて
架空の中の現実としてその喪失を語っていく。その細部がよく練りこまれている
ことが、余計に、その中心にある「町の消失」というものの不気味さを浮かび上がらせて
いると思います。大きな、大きすぎる理不尽に相対したとき、人はどうするのか。
忌み嫌うことで自分とは関係ないという態度を貫くのか。
静観してあきらめてしまうのか。
そこに、あえて戦いを挑むのか・・。
この物語にも、それぞれの立場を取る人が書き込まれているんですが、
これ、私ならどうするんやろう、と思いながら読んでました。
やっぱり私もずるい人間であるので。自分に関係ないなら、静観しちゃうのでしょう。
世界中で戦争があっても、とにかく今日の自分の家族のご飯の心配が先になるように。
でも、その町に自分の愛する人や友達がいたなら・・。
これは、きっと違う。そう思うと、人間という存在自体が、もう理不尽なものだと。
顔が見え、心が繋がっていないと、人の痛みを自分の痛みとして捉えることができない・・。
この物語の中で、町の消失に携わり、その悲劇を食い止めるために奔走している
人々は、自分の大切な人を失った人たちばかりだものな。
しかし、それをひっくり返すと、思いが繋がる人のためには、人はどこまでも
強くなれるんだとも言えるのかも・・・。この登場人物たちの個性豊かな書き分け
と、その思いの深さ、終わらない戦いを挑み続ける心に共感しながら、
その周りにある、大きすぎる無関心のことを、どうしても考えてしまう。
町を飲み込んでいく大きな意志は、その無関心の大きな塊なのかと思ったり・・。
自分がその無関心の中にいるような、居心地の悪さを感じる、それも
またこういう物語を読むことで気づかされることなのかもしれない。

とにかく最後まで息つく暇もなく読んでしまいました。
いろいろ考えると、突っ込みどころもたくさんある物語なんですが、
読んでいる間は、すっかりその世界に囚われて帰ってこれない・・。
伏線も、人間関係の織り成す心のつながりも、とてもよく書き込まれています。
こういう時間が、本を読む至福ですね。
ますますこれからが楽しみな作家さんです!!

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
三崎さんの作風がまだ把握しきれないワタクシですけれど
どの作品も、わたしたちが普通だと思いこんでいる日常から、大前提自体がほんの少しずれている世界が描かれていることは確かですね。
そしてその大前提を説明しないことで、読者は足元が定まらない不安を覚えるのかもしれません。
「ずれている」ことが作風になるのだとすると、これからもいろんなずれ方を見せていただけるのかもしれませんね。
・・・・・それと、三崎亜記さんは「彼女」ではなく・・・・・^^;
ふらっと
2006/12/29 08:37
>ふらっとさん
うわあっと!!そうでした。訂正させて頂きました。ありがとうございます。そうですね、その「ずれ」が生み出す様々なことを描き出すことで、見えてくるものを描き出そうとしているんですよね。
今回、少しその初めの設定がユニークすぎて無理がありすぎるのが、私の不安の源なんでしょうかね?ただ、そこを議論すると、この物語の面白さが失われてしまいますよね。難しいところです。
ERI
2006/12/30 20:23
ERIさん、こんばんは(^^)。
消滅に対抗する人々の、痛いほどの思いが、シッカリと描かれていて、ゆっくり噛み締めながら読みました。
ただ困ったのは、この作品の独特の世界観、作者に明確に語ってもらった方がよかったのか、読者としての想像で読んでしまってよかったのかどうか・・・という点ですね。
水無月・R
2007/07/09 21:57
>水無月・Rさん
「作者に明確に語ってもらった方がよかったのか、読者としての想像で読んでしまってよかったのかどうか」確かに、そのあたりのスタンスが曖昧で、ほころびはたくさんありましたね。もっと緻密にいくか、もっと理不尽に徹するかした方がよかったかも?でも、その不安定さがこの作品の持ち味と結びついているから・・。という迷いもわかって書いてはるとしたら、これまた一本取られているのかな?
ERI
2007/07/14 00:24

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