おいしい本箱Diary

アクセスカウンタ

zoom RSS 千年樹 荻原浩 集英社

<<   作成日時 : 2007/05/05 23:41   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 3 / トラックバック 4 / コメント 8

画像樹齢千年を越す、楠をめぐる物語。
過去と今が交錯し、その「場」の中で時空が繋がり、人々の様々な感情に
リンクしていく。葉ずれのざわめきと共に、過去と現在が交錯する・・。
千年の時を、ただじっと生きる「樹」の強さに対する畏怖の念。
底知れなさに対する恐れが、物語に幻想性を添えている。
「押入れのちよ」の系列かと思うが、私はこちらの方が面白かった。

「萌芽」
読んでいて、冷や汗が出る感じ。ギリギリに追い詰められて山中を
さまよう絶望感・・「生」に対する執念が、このあとの物語にも、影になって
ずっと漂う。樹海を彷徨い、一縷の望みを抱いて山頂に向かう、もうその
時には、絶対に絶望が待っていると予測がつくのが、また切ない。
その壮絶さと対照的に描かれる、現代の「生」の薄いこと・・。
どちらも悲劇なのだが、その軸が、決定的に違うのである。
それをあぶりだす筆致が、見事。ひきずりこまれました。

「瓶詰めの約束」
先日読んだ「ブラッカムの爆撃機」を思い出してしまった。
空襲、というものの怖さ・・。たった二機の飛行機の恐怖がいまだ醒めないアメリカは、
やはり世界の中でも、特異な存在なのだろうと思ってしまう。
もちろん、私も直接しっているわけではないけれども・・。
自分の住んでいる町が、火の玉になって燃えたことがある歴史を
食べたことがあるかないかは大きい。
荻原さんの文体には、独特のぬめり感があって、逃げる誠次をどこまでも
追いかけてくる「死」の描写が、恐ろしい。

「梢の呼ぶ声」
待ち人、来たらず。来ない・・こんなところで待っていても、絶対来ないよ、と
初めから思う、切なさ。なぜ来ないのか。二人の女が待つ来ない人の理由が
月明かりの中で語られる。
楠の細かい葉の間からもれてくる月光が照らす、今にも胸から石になって
転がりだしそうな切なさが、ぼんやり光る・・。
それを、自分の胸の中で転がしてみたくなる・・。佳篇です。

「蝉鳴くや」
「今朝、ママンが死んだ」というカミュの異邦人をちょっと思い出した。
自分の置かれている状況の滑稽さに、プツっと切れてしまいそうに
なる時の、あの膨れ上がる感じ。周りの状況に耐えられない、と思いつつ
一番耐え切れないのは、そんな場所にいる自分自身なのだ。
これは私だけなのかもしれないんですが。
自分のしたことが恥ずかしくて寝られなくなってしまう夜なんか、
自分をよく切れる刃物で、三枚に下ろす妄想に囚われます。
そう、お魚をおろす感じ(爆)
ごく事務的に、冷静に手順を考えながら自分を下ろしているうちに、
なんだかやっと眠れたりする。
だからかしらん・・刃を眺めているうちに、プツっと・・うわあ。これ、ほんとにやりそうで
神経にこたえました。

「夜鳴き鳥」
暴力をふるうことに、何のためらいも持たない、ということに対する生理的な
嫌悪・・というか、不可解さって、ぬぐいがたいものがありますよね。
その、暴力をふるう人間の底に、黒々と横たわるわびしさや、脆弱さ、もろさ。
ぼろぼろと崩れる腐った骨のような、その本質が、透けて見える。
楠は、全てを包み込んで、ざわめく・・。

「郭公の巣」
「赤ちゃんポスト」て、出来たじゃないですか・・。
その趣旨には、多少なりとも、仕方ない面もある、と思います。
でも、「赤ちゃん」と「ポスト」っていう、その言葉の組み合わせが、イヤ。
子どもを捨てるって、大変なことですよね?
それを、そんな軽い言葉で表現する、っていうのが、どうもイヤです。
大事にせなあかんことが、なんか無視されてるような気がする。
そこに、置かれる子どもの気持ちは、どうなるんかなあ。
私やったら、まだどっかの玄関においとかれるほうが、マシやと思ってしまいそう。
「赤ちゃんポスト」に入れられるよりは・・。
いつの世も、子どもを育てるのって、ほんまに大変なこと。
でも、自分の手で育てられない苦しみは、母親なら想像できる・・・。
それ以上に辛いことはない、って思うのは、私が幸せな母親やったからやろうか。
誰も、愛されるために生まれてきたたった一つの命やものね。

「バァバの石段」
これは、いい話やったなあ・・。うん。男は気概やね。
愛情を一つずつ積み上げていくって、石段をつみあげるより、難しいことで
ございます。その始まりの。一通の手紙が、ドラマチックでした。

「落枝」
千年の樹齢を持つ樹の、最期。
でも、その最期も、壮大な始まりなんやな、と。
何もかもを飲み込んで、ただ静かに時を紡ぐ・・・・。
「樹」に対する畏敬の念は、やはり人なら、誰でも思うことがあると思う。
暑くても、寒くても、ただひたすらそこに、いる。
動かず、語らず、命を脈打たせる、決して人にはできない日々。
だから、人は、大きな樹に惹かれてしまうんやろうな。

その中で、私たちには抱けない想いや、考えを樹は持っているのかもしれない、と
想像したりする。長い長いサイクルの、私たちには聞き取れない言葉を
発しているかもしれない。その営みと、人という、大きな洞を抱えた生き物との
かかわりと、対比。時は、あるがままに流れていく。それを、幻想的で、かつ生々しい角度で
切り取った、面白い一つの世界だったとおもいます。
荻原さんの作品は、私には当たり外れがあるんですが、これは私としては当たりでした。

おいしい本箱 http://www.oishiihonbako.jp/index_f.php




テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 3
なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)

トラックバック(4件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
千年樹*荻原浩
☆☆☆☆・ 千年樹荻原 浩 (2007/03)集英社 この商品の詳細を見る 木はすべてを見ていた。 ある町に、千年の時を生き続ける一本のくすの巨樹があった。千年という長い時間を生き続ける一本の巨樹の生と、その脇で繰り返& ...続きを見る
+++ こんな一冊 +++
2007/05/06 08:40
千年樹 荻原浩
装丁は松田行正+日向麻梨子。「小説すばる」2003年12月号〜2006年12月号掲載に加筆修正の短編集。 ・萌芽:襲われて妻子と共に逃げる国司の公惟。いじめから自殺を計る星雅也。 ・瓶詰の約束:太平洋戦争下の誠次の宝物& ...続きを見る
粋な提案
2007/05/17 12:47
荻原浩『千年樹』
荻原浩『千年樹』 集英社 2007年3月30日発行 ...続きを見る
多趣味が趣味♪
2007/05/27 22:07
荻原浩【千年樹】
中学生の雅也は、悪質ないじめに堪えかねて自殺を考える。大きな木の枝にロープをかけたとき、どこからか歌が聞こえてきた。子供の声だ。 ...続きを見る
ぱんどらの本箱
2008/03/18 10:12

コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
今は今だけではありえず、人もひとりだけでは存在し得ない。
連綿と続く歴史とも言い換えられるような時間の連なりが
一枚一枚薄紙をめくるように現れ出てくるような心地の物語でした。
丸ごと吸い込まれてしまいそうなくらくら感がありました。
ふらっと
2007/05/06 08:44
>ふらっとさん
連作、という形が、いい効果を上げていましたね。騙し絵のように、葉の形が、人の顔になって浮かび上がるような。昔、家の近くに、やはり大きな楠があって、そこに綱が一本ぶら下がってたんですよ。そこは元々日本軍の宿舎で、防空壕があって・・。その光景を思い出し、妙に記憶がリンクしてしまいました。こういうテイストは、好みです。
ERI
2007/05/07 01:52
時代を超えて交錯するふたつの物語。どんな接点を持っているのかに惹かれながら読みました。それぞれに抱える辛さや苦しみ。変わることなく受け継がれていく人の思いが伝わってきました。
ところでご提案…プロバイダーfc2ブログの不具合改善怠慢により、ウエブリブログからfc2ブログへのトラバが反映されなくなってるみたいです(涙。今回改善されてたらいいのですが…)。ゆえに前回の「小学五年生」は送っていただいたと思いますが、未反映。いくつか合う記事もありますが、そんなわけで後ろ向きになってます(汗)。とりあえずこちらからお送りして、その都度一応打っていただいて反映されるようになったら(なるのかfc2?)過去分も一括して送っていただくということでお願いしたいのですが、いかがでしょう?。
藍色
2007/05/17 12:28
>藍色さん
今、そうか、と疑問氷解でした。ふらっとさんのところにもTBできなくて、個人的な相性かと思っていたのです。BIGLOBEのこのブログも、以前からTBに弱いので、果たしてどちらのせいかわからないのですが・・。
ご提案の通りにさせていただきますね。ありがとうございます。
ERI
2007/05/17 17:30
こんばんは!
今回の荻原さんの物語は非常に重厚感が漂っていましたね。
人間の生と死の重さはいつの時代も同じようでありそうでもなく・・・。
私の一番のお気に入りは「バァバの石段」でした。
やっぱり荻原さんには心がほっこりするものを書いていただきたいなぁと。
でも、そんな荻原さんが時々見せるホラーめいた一面にはいつも驚かされます。「郭公の巣」のラストにはゾーっときました。
tomekiti
2007/05/27 22:16
>tomekitiさん
こんばんは!!力作でしたよねえ・・。「萌芽」の厳しさには、鳥肌が立つくらいでした。人情・ほっこり系とホラー、両方かいて、ご自分のバランスを取ってらっしゃるのかな、なんて思います。ホラー系も好きなんで、二度美味しいですわ。時代に左右される人間の悲しみを感じました。千年生きる木とは、スタンスが違いますね・・。
ERI
2007/05/29 01:24
昨日と本日、他のウエブリブログの方からのトラバが通りました。トラバ直ったのかもです。お手数ですがちょっとお試しくださるとうれしいです。過去の未到着分、手間を減らすためにURLつきで下記に書いておきますね。
千年樹
http://1iki.blog19.fc2.com/tb.php/239-c37ab147
小学五年生
http://1iki.blog19.fc2.com/tb.php/233-5e2c975d
月光スイッチ
http://1iki.blog19.fc2.com/tb.php/262-52d22239
八日目の蝉
http://1iki.blog19.fc2.com/tb.php/260-7f67369d
もし通ったら…こちらからのモチベーションは上がると思います。合う記事が14くらいあります。送らせていただくのは2つづつくらいでいかがでしょう?(一方的でごめんなさい、汗)。
藍色
2007/07/13 16:37
トラバ、無事に4つとも届きました!。うれしいです。でも、ほかの記事のもいっぱいコメント寄せていただいてて…また、うかがうのが遅くなっちゃいそうです(汗)。
藍色
2007/07/14 00:44

コメントする help

ニックネーム
本 文

記事一覧

千年樹 荻原浩 集英社 おいしい本箱Diary/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる