一言で述べてしまうと、お馬鹿さんなことをしてる、恋人達の話、になってしまう。何しろ、奥さんの出産の留守の間に、その家に転がり込んで よろしくやっている間の話なんだからなあ・・。 世間的には、おいおい、っていう愚かな話。 誰にも褒められない、誰に相談しても、「やめときいな」って、言われてしまう話。 いや・・誰にも言えない話。 それが不思議に汚れて見えないのは、この主人公の香織という女の子の、 飄々とした雰囲気と、そんな自分に対する目線の冷静さがかもしだすもの。 この子は、全部わかっている。 自分達が滑稽なことも。 自分がひどいことをしていることも。 恋人が、そんなに自分を大切に思っているわけではないことも。 しかし、そんな「眼に見えること」じゃないところに、この時の香織は生きている。 セイちゃんという恋人が、「好き」であるということ。 「好き」という気持ちの中にも、その言葉では掬いきれない色や、揺れがある。 自分でもどうしようもない、動かしがたい、理屈では割り切れない、何物か。 太陽が照らす場所にはなくて、月光に照らされて初めて浮かび上がる、捉えがたい 影のような、そのゆらめきを、書こうとしているように思えた。 セイちゃんのマンションの住人たちや、道端で知り合った姉弟が、照らし出す 自分のそんな気持ちを、押入れの中でぼんやりと映し出してみる香織の姿は 「恋」という煌きからは遠くて、うずくまる胎児を連想させる。 その閉じた空間の中でしか手に入ったとしか思えないほどの、捉えがたいものを、それでも 追い続けてしまう、そんな、どうしようもなさ。 このスイッチが入ってしまうのは、切ないことやなあ・・。 想いを言葉にするのは非常に危うい、難しいことで。 何かを口にだし、それがわかってもらえる瞬間があれば、まだしも。 そうではないことの方が、圧倒的に、多いのだ。 だから、一つの、一人の女性の「好き」をこんなに枚数をかけて描く、この筆遣いが、 柔らかくて、いいなと思う。 はっきりと言い切れないこと、損得じゃない、心だけが感じること。 バッカじゃない、と人から言われるようなことで、案外人は命を繋いでいたりする。 表通りの裏側にいるような、こんな気持ちにひっそりと共感できるか、否か。 それが、この物語に入り込めるかどうかかもしれない。 私は、好きでした。 おいしい本箱 http://www.oishiihonbako.jp/index_f.php |
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「月光スイッチ」橋本紡
月光スイッチ橋本 紡 (2007/03)角川書店 この商品の詳細を見る 香織には抱きしめあっているだけで幸せを感じる大好きな人がいる。 大好きなセイちゃんには奥さんがいるが、出産を控えて実家に帰ることになる。 奥さんの留守 ...続きを見る |
しんちゃんの買い物帳 2007/05/20 10:40 |
「月光スイッチ」橋本紡
月光スイッチ ...続きを見る |
本のある生活 2007/06/17 21:30 |
月光スイッチ 橋本紡
カバー写真は百瀬裕子。ブックデザインは鈴木成一デザイン室。初出野性時代2006年10月号。 主人公で語り手のわたし、香織は三十歳前で小遣いを貰う愛人。本当に愛しているセイちゃん(山崎誠太郎)が帰ってしまう寂しさ ...続きを見る |
粋な提案 2007/07/03 04:24 |
| 内 容 | ニックネーム/日時 |
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はじめまして。しんちゃんの感想からこちらへ来たのですが、実はあちらこちらでお名前は見ていました。 |
june 2007/06/17 21:35 |
>juneさん |
ERI 2007/06/19 17:01 |
ごぶさたしてしまいました…。香織の全部わかっているのに自分でもどうしようもない気持ち。“捉えがたい影のような、そのゆらめき”。橋本さんの優しい視線がよかったです。やっぱりERIさんの記事を読むと謎が紐解かれるような気がします。 |
藍色 2007/07/03 04:12 |
>藍色さん |
ERI 2007/07/03 17:57 |
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