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zoom RSS 八日目の蝉 角田光代 中央公論新社

<<   作成日時 : 2007/05/09 23:37   >>

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画像事件を起こす側に、自分がなってしまったら。
いつも人事のように、「ふ〜〜ん」と思っている立場に、もし自分がなって
しまったら。そういう小説は、多いんですが、この「赤ちゃん誘拐」っていう
のは、女の盲点をつく、というか、本能的なところを責められるようで辛いですわ。
新しく始まったお仕事で、たくさんの赤ちゃんにお会いする機会に恵まれているんですが
ほんとに、赤ちゃんというのは魅力が・・魔力がありますね。
小さい体に、命がいっぱい詰まってて。
あちこちを見つめる瞳に、世界への驚きをいっぱいに宿して。
自分の子も、見上げなければならないほどでかくなり、友達の子どもたちも
大きくなり、赤ちゃんに最近触れてなかったんですが、久々に抱く赤ちゃんに
とろんとろんになります。だからねえ・・冒頭、希和子が赤ちゃんを連れ去るシーン、
あかんやん、と思いつつ、この衝動は、腑に落ちて心にこたえます。
誰もいない部屋に踏み込んで、赤ちゃんを連れ去る。
その部屋の散らかり具合や、めくれた布団が、希和子の恋愛が
幸せではなかったことをまざまざと、わからせる。
その中に踏み込んでいく裸足の足が踏みつけるゴミの感触まで
伝わるような、生々しさ。角田さんの真骨頂ですわ。
そんな間違ったところから生まれた愛情の行方を、執拗に書くこの小説は、
「愛する」ということの理不尽さを浮かび上がらせてとても読み応えがありました。

子どもを誘拐した、その後の逃亡生活の、いちいち骨身にこたえる臨場感は、
これが一歩間違えれば、自分にも起こりえることだという、崖っぷちを
覗くこわさに溢れているからだろうと思う。
ふと、入り込んだ迷路。それまで、誰に後ろ指さされることなく歩いてきた
人生が、たった一つの恋で崩れていく。
傷ついて、何も確かなものがない世界で、たった一つ、生命力を溢れさせて笑っている
赤ちゃんに自分の全てを見出してしまった希和子。
男と、子どもは、違うからなあ・・。
女にとって子どもは、どこまでも愛していい、存在やから。
どんどん自分の愛情を沁み込ませて、笑わせて、守って、可愛がれる。
女は愛されたがりやけど、それ以上に愛したがりでもあると思う。
何かに自分の愛情を吸い込ませないと、枯れてしまうから。
先がない、と覚悟しながら過ごす、さらってきた薫との生活が、なんだか夢のように儚い。

後半は、一転して、逃亡生活が終わってしまった薫こと、恵理菜のその後の
人生が語られていく。薫として暮らした生活から、産みの親との暮らしにも馴染めず
異端者扱いのまま、友達もできず。元々、子育てに向いていなかった両親とは
溝ができたまま・・・。このどこかに自分を置いてきたような生活の中で、
やはり恵理菜は、奥さんのいる人の子どもを妊娠してしまい、一人で産む決意をする。
その決意の後押しをするのは、希和子と暮らした、小豆島の光景なのが
印象的。自分が無条件に愛された景色の中に、恵理菜は帰っていき、子どもを愛すること
を夢見る・・・。
血が繋がっていても、心が繋がるとは限らない。
一緒に暮らしていても、分かり合えるとは限らない。
血が繋がった両親は、恵理菜を愛することができなかった。
これも、また、誰を責めるわけにもいかない、どうしようもないこと。
一方、加害者として恵理菜の人生を狂わせてしまった希和子は、確かに薫に愛情を残して
いったのだ。その気持ちを受け継ぐように、恵理菜は子どもを産む人生を選ぶのだから・・。
人生はヒフティ・ヒフティだと私はいつも思う。
ずっと何かから逃げ続けた希和子の人生は悲しいけれど、薫と暮らしたほんの短い
日々は、その後の自分にはいけない場所に向かう船を見送る希和子の人生を
キラキラと照らしているだろう。最後の希和子の、その後の独白が、切ない。
全てなくした希和子を暖めるのは、愛されたことではなくて、愛した記憶だ。
理不尽でも、間違っていても、誰かを無条件に愛したことが、人生をきらめかせる。


この物語の男達がかもし出すあかんたれ加減と、女の繰り広げる壮絶な人生の
対比が、面白い。なんかこう、男の人が、女の人生の添え物、って感じで(笑)
いやいや、一度、むっちゃいい男の出てくる、角田さんの小説を読んでみたいもんです。
・・・・どうでしょう。

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
何だかとても考えさせられるお話のようですね。
ブログを拝見して読みたくなりました、
特に子供に対する愛情の部分…。
早速図書館で予約してみます(^^)
新しいお仕事、始められたのですね!!とろんとろんになりつつも、無理しはらんで下さいね(*^^*)/
ふふふ。逆にERIさんの魅力で赤ん坊をとろんとろんと〜☆なんて。
またご連絡しま〜す♪
図書館大好娘
2007/05/10 08:02
いままでの角田さんにはなかったテイストの物語で
考えさせられることがたくさんで 重くもあったけれど 愉しみました。
希和子のしあわせが、これから何があっても褪せないだろうと思えるのは
愛されたからではなく心いっぱい愛したからなのでしょうね。
重く暗いけれど、きらきらと明るい物語でした。
ふらっと
2007/05/15 07:11
ごぶさたでした〜。
赤ん坊を連れて逃げる希和子の、母親になりたい気持ち気持ちがリアルに伝わってきました。母と娘の一見理想的で幸福な関係が幸せであるほどその幸せがいつか壊れそうな予感が大きく、こわかったです。後半、「薫」は愛情を知ったので、大丈夫って応援したくなりました。
“誰かを無条件に愛したことが、人生をきらめかせる。”実感したいです〜。あかんたれな男の人が、女の人生の添え物…笑いました。いい男の出てくる角田さんの小説、読んでみたいですね。
…たぶんまだトラバ直ってないと思いますが、一応お願いします…。
藍色
2007/06/02 17:15
>藍色さん
コメントありがとうございます♪
偽りの親子の幸せが壊れる確信。読んでいるうちにひしひし沸いてきて、それが切なかったですねえ。愛情というものの切なさ。はかなさ・・。強さ。
それを、女という生き物の抜き差しならない部分で描いた角田さんに拍手ですね♪
ERI
2007/06/02 23:45

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