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zoom RSS ハイドラ 金原ひとみ 新潮社

<<   作成日時 : 2007/05/17 00:29   >>

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画像ハイドラとは、ギリシャ神話に登場する九つの頭を持つ水蛇。切っても切っても、
新しい頭が生えてくる化け物である。「沼のようなところにいて、じめじめして、
腐敗臭がする」。そんなイメージを主人公に重ねてあるらしい。主人公は24才の
モデルの女性早希だ。新崎という写真家の撮る写真集の、ほぼ専属モデルであり、
なおかつ新崎と暮らしている。新崎は、ほぼ早希をほったらかしで、彼女に
お金と空間以外、何も与えない。彼女をがらんどうにしておき、その崩壊する
様を写真に収めるのが目的のように・・。

その空っぽの空間で、早希は、大量の食べ物を噛み吐きする。噛み吐きって
初めて知ったんですが、飲み込まないで、ただ、ひたすら噛んで、吐き出すんですね。
でも、飲み込まないから、太らない・・というか、栄養不良です。
噛み続けて、口の中が切れて、血だらけになっても、唾液が出なくなって喉が
からからになっても、顎が、感覚をなくすくらい噛んで出し続ける・・・。
鬼気迫るシーンでした。そんな生活の中で、彼女は、新しい男の人と出会う。
松木というそのミュージシャンの彼は、あったかい、生きるエネルギーに満ちた人。
松木に惹かれた早希は、そんな自分の異常さの意味に気づいていく・・。

金原さんの小説は、いつも辛くて、途中で読むのをやめてしまったこともあるんですが。
いや、ただ辛いだけなら、読めるんです。ただ、どうもその辛さに客観性が伴っていなくて
「ね?私、痛いの。凄く痛いの」って、気持ちよくなってるような雰囲気があって
どうも後味が良くなかった。でも、今回は最後まで読めましたね。
早希という女性が何におびえているのかが、客観性を持って描写されていたと思う。
そうできた一つの要因は、松木という男性の存在だと思う。
彼女をちゃんと抱きしめて、暖かい愛情で包もうとする、ごくまっとうな男の人。
でも、早希は、そこに安住することは、できない・・・。
なぜなら、噛み吐きを繰り返す、そんな自分が、相手を傷つけることが、怖いから。

この早希も、異常に人を傷つけることを恐れてる。
この「傷つく」という感覚は、私もけっこう感じるほうなんで、これはもう、仕方ないこと
だと思うんですよね。傷つくまい、として傷つかないわけにはいかないし。
何も感じることのないように、シャットアウトなんて、できない。
また、そうしようと思えば、今度は違うところが歪んでくるに違いない。
この物語の登場人物たちも、それぞれに鋭く傷ついているのに、それを
誰も、何も人に言わない・・。お互いの壁の前で、立ちすくんでる、その気配が
「今」を映していますね。壁を壊そうとするよりも、シャットアウトすることを選ぶ。
語るより沈黙を。怒りより、薄ら笑いを・・・。
この、お互いに踏み込むことを異常に恐れる感覚は、何だろうなあ。
その癖、いざ傷つけるときには、容赦がない。
自分を傷つけることにも容赦がない。
昨日・・恐ろしい事件がありましたね・・。
あれは究極に自分を傷つける形ですよね。
自分を殺す代わりに、母親を殺してしまったような気がします。
他人じゃない、母親だったというのを皆異常に感じていますが、
きっとそこには、ちょっとした甘えもあったのかもしれない。
母親なら許してもらえる、っていう甘え。母親と自分が分離できてないように思った。
何者かであることを常に求められる時代に生きていることは、しんどいですね。
完璧な自分など、ありはしないのに・・・。


この、若い人たちにとっての「傷つく」ということを考えることがよくあるんですが、
答えは出ない。
たとえ、自分が傷ついたとしても、それを相手に説明できて、わかってもらえれば
多分OKなんだと思うんですよね。その共通の言葉を、なくしてしまっているのか。
松木というミュージシャンの強さは、言葉にならないところを、音楽で表現できる
そこにあるのかもしれない・・・。
人間同士の理解と、共感という壁。金原さんの小説は、その壁を客観的に書く
ことに、たどりついたような気がします。では、ここからどうするのか?
ここから出て行く日が、くるのか?そこを、いつか読んでみたい。そう、思います。


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「ハイドラ」金原ひとみ を読んで。
ハイドラ (新潮社)金原 ひとみ 迫ってくる体温を感じながら感じた。――世界が変わっていくのを。 写真家の専属モデルであり、私生活でも密かに同棲をつづける早希。だが人形のような無機質さを求める男との暮らしに、次第に蝕まれてゆく。ある日、その閉ざされた部屋から彼.. ...続きを見る
そういうのがいいな、わたしは。
2007/09/25 00:39

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
はじめまして。いつも読ませて頂いております。
ハイドラどころか金原さんの作品を読んだことがないのですが、

『昨日・・恐ろしい事件がありましたね・・。』
この件に関してのお話、全く同じことを思っていました。

そして、私も一児の母親なのですが、
子供の矛先が他者では無く母親に向いたこと。。
その意味を考えているのです。
だおべろまん
2007/05/17 11:45
>だおべろまんさん
コメント、ありがとうございます。
私も母親として、色々なことを考えてしまいました。
きっと「誰でも良かった」わけではあるまいと。
「母親」でなければならなかった。その意味を・・。
人の親として辛すぎる事件です。今の若い人の生きにくさをよく
考えてしまうのですが、この事件の底にも、それがあるのかもしれませんね・・。
ERI
2007/05/17 17:22

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