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help リーダーに追加 RSS 静かな爆弾 吉田修一 中央公論新社

<<   作成日時 : 2008/05/09 20:38   >>

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画像「想いを伝える」というのは、どういうことなんだろう。
最近、これを考えることが多いんですよね。
「伝える」ことで何が生まれるのか。
人は、自分が考えること、思うことを誰かに伝えたい、と願う。
例えば、私は、なんのためにこのブログを書いてるんだろう・・。
そんなことを考えてしまう。
誰に、何を伝えたいの?

・・・そう思ったとき、私が思い浮かべるのは、漠然とした誰かではなくて
「読んでるよ」と言ってくれる何人かの人達。
そして、自分自身。
誰に、何を伝えたい?
自分の一番大切なものを誰か・・漠然とした誰かではなく、たった一人に伝えようと
すること・・そこから、きっと世界を変える静かな爆弾が生まれてくるんではないか。
吉田さんのこの物語を読みながら、そんなことを考えた。

主人公の俊平は、ジャーナリスト。
根っからの仕事人間である彼は、仕事に埋没すると、全く回りが見えなくなる。
それが原因で、これまで付き合ってきた女性とは、全て破綻してきた。
その俊平が、ある日一人の女性と出会う。響子という名前の彼女は、耳が聞えない。
静かな佇まいの彼女に惹かれていく俊平・・。
彼女に特別な思いを抱く俊平だが、その彼に、大きな取材のビッグチャンスが舞い込む。
またもや、仕事以外に何も目に入らなくなる日々。
やっとそこから戻ってきたとき、彼女は姿を消していた・・。

俊平は、確かに、こりゃふられるわ、というワーカーホリックぶりなんですが
何かに夢中になると、そこにとことん突っ走る私は、この彼の気分が
わかるような気もするんですよね。

伝えたいことがあった。
知ってほしいことがあった。
誰に。
伝えたくて番組を作った。
誰に。
・・・・・


大きな問題、国際的なドキュメンタリー、その重みが、一人の人間の思いより
重いのか否か。女を愛することと、その国際問題というものがギャップを持てば持つほど、
その二つが、俊平の中で有機的に結びついていく。
その結びつきが、響子という女性・・自分の言葉をすらすらとは伝えにくい女性に
自分を投げかけていこうとする、その姿勢にあるということが、
ゆっくりゆっくりと沁みこんでくる。
一つのことにしか全力投球できない不器用な俊平の生き方が目指していこうと
するものは何か・・一人の、目の前にいる、たった一人の女性が
それを教えていくんですよね。
丁寧な心理描写、二人の間に流れる、空気感の描写が、さりげなく上手い。
だから、響子が、俊平にとってたった一人の人だということが、伝わる。
そこに、最後まで惹かれて読み終えました・・。

ラストあたりで、俊平が、野球場に紛れ込んでしまい、そのたくさんの
見知らぬ顔、顔、顔に恐怖を覚えるというところが、非常に印象的。
人が生きていく上で、自分が果たしていく役割、みたいなものを考えたときに、
漠然とした誰かの為に、人って頑張れるんかな、と思う。
例えば、それは、俊平のように、ジャーナリストであっても、小説家であっても、
サラリーマンであっても、お店をやっていたとしても。
自分がしんどい時、ここで頑張らなきゃ、と思うとき。
その自分を支えてくれるのは、自分が温度を持てる、顔の見える誰かで
あるんじゃないのか。
そして、その誰か一人に対して誠実に生き、愛していくことから、この世界は
始まり、広がっていくと思う。だって、自分の思いを伝えたい人がいるならば。
その人が悲しみ、苦しむことを想像する力があるならば、その想像が
「誰かの大切な人」に及んでいくと思うから。
その想像し、一を、多に置き換えていく役割を、また物語というものは
になっていると思うんですよね。
誰に、何を伝えたい?この根源的な問いに吉田さんが出した一つの
答えを、愛しく思う物語でした。
男と女を書かせたら、うまいですね、吉田さんは。
素敵な小説でした。

http://www.oishiihonbako.jp/index_f.php

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