装丁が、理論社らしい、シンプルで垢抜けたいい感じです。こういうセンスの良さって、なかなかたどりつけないもので 理論社の意気込みを感じてしまいました。 森さんですもんね。うん、わかる、わかる、とページを開きました。 凝った小説でした。 主人公の環は、家族と13歳で死に別れ、その後一緒に暮らした 叔母ともやはり死に別れてしまう。その孤独感の中で心を閉ざして しまった環は、人と交わることを避けて生きている。 そんな時、たった一人親しくなった自転車屋のおじさんに貰った 自転車で、環は死後の世界にたどり着く。 そこには、環が死に別れた家族がいた。 ところが、死後の世界には40kmという距離を一定速度で走り続けないと たどり着けない・・。自転車の力を借りずに、その場所に行くために 環は、マラソンを始める・・・。 そこから、環に声をかけてきた、ドクロさんという往年のトップランナーが 作った、へっぽこ素人マラソンチームの面々との付き合いが始まり、 「走る」という事をめぐって、環が精神的な成長を遂げる過程が描かれます。 「死」が、現実を眺めるときの、重要なファクターになるのは「カラフル」に 通じるものがありますが、今回、主人公が抱えるのは「家族の死」という 孤独。その中で、かいこの繭のように、自分で紡いだ殻を、決して綺麗ではなく 不器用に少しずつもがきながら抜け出していく様が、描かれていきます。 長編らしく、その環の物語に、登場人物たちの様々な事情が絡んできます。 トップランナーだったドクロさんがマラソンをやめた理由、 口の悪いいつも嫌味ばっかり言ってる真知栄子というオバサンの、人生・・。 家族の愛に飢えていた環が、死後の世界で、死に別れた家族に再会して 傷を癒してもらい、走るきっかけを与えられ、「現実」を抱えた人間たちと 交わることで、「生きる」ことをもう一度考え始める・・なんていう図式を 描きたくなる展開で、そう言ってしまうこともできそうだし、そういう物語でも あるんですが。もうねえ、徹頭徹尾、この環という少女が不器用なんですねえ。 いや、少女ではなくて22歳らしいんですが、どうも精神年齢が13歳・・そう、 家族を亡くしてから、彼女の時は止まってるんです。 それでも、何とか見つけていた、自分の「通訳」という夢も、また、叔母の死に よって、放り出してしまう。「不幸」に目かくしをされてしまったように、 緑の美しさも、青空も、風も感じられなくなってしまっている。 その目隠しを、「走る」という、地味な、すぐヘロヘロになってしまう ような苦しい行為を積み重ねる「身体感覚」が、すこしずつ取り払っていく。 その「かっこ悪さ」を森さんは書きたかったのかな、と思いました。 鮮やかな転身、なんて人はできない。 少しずつしか変われない。 でも、変わることは出来る。それが、とても不器用で、かっこ悪くて ただ、もがいているだけにしか見えなくても。 また、出会うために別れることだってあるんだから・・。 最近の、いろんなニュースで報道される事件を見ていると、み〜んな 事件の動機が「人のせい」なんですよね・・。 多分・・そう思っているうちは、何にも変わらないんでしょう。 自分の人生は、自分で引き受けるしかない。 不器用でも、かっこ悪くても、自分の体で得たものしか、人生はお返しを してくれない。 ラストを飾るフルマラソンで、 走る苦しさの中で、感じる風と光の美しさ。 それは、環が、自分の力で得た輝きなんやなあ・・と。 そのラストが、良かったですね。 正直、森さんの小説にしては、切れ味が鈍いんではないか、と不満でした。 登場人物が多すぎて、粗筋もごちゃっとした印象だし、死後の国に環が やたらに行きたがるのも、個人的にあまり好きではなかったり。 YAと、大人の小説の間で森さん、迷っちゃったのかな、と思ったり。 でも、手元において、何度か気に入ったところを読み返しているうちに この不器用さが、結構今のこの年代の若者たちとリンクするところが あるんじゃないか、と思えてきました。 自分がおばちゃんになってしまったせいかもしれませんが、最近、この 年頃の子たちに出会うと、その幼さと、人なれしていない不器用さに びっくりすることがあります。けっこう、それが歯がゆかったりするのは 私も、真知栄子なのかもしれませんが(笑) 森さんの、この小説は、そんな人たちに対しての応援歌なのかな、と 思ったり・・。 でも、久々に、森さんのヤングアダルト小説、読みたいです。 次は、ぜひそれを理論社から出していただきたいです。 おいしい本箱 http://www.oishiihonbako.jp/index_f.php |
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