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zoom RSS 肩胛骨は翼のなごり デイヴィッド・アーモンド 山田順子訳 創元推理文庫

<<   作成日時 : 2009/07/27 09:12   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 6 / トラックバック 0 / コメント 4

画像この物語が、私の、デイヴィッド・アーモンド初読みでした。
今回、文庫になっているのを見つけて、再読。
久々に読んで、この何とも言えない独特の詩情に、うっとりして
しまいました。

主人公のマイケルは、一家で新しい家に引っ越してきたばかり。
ある日、まだ何も手入れされていない荒れ果てた庭の隅に立つ、
今にも崩れ落ちそうなガレージに、ある不思議な生き物が
生息しているのを見つける。
青白い顔に、黒いスーツ。もつれた髪に、ほこりまみれの体。
そこらじゅうにあるアオバエの死体の中にいる男の肩には
翼があった・・・。スケリグと名乗る彼は一体何なのか?
マイケルと、隣の家に住む一風変わった少女・ミナと、その
不思議な存在の男の、心の交流が始まる・・。

汚濁の中にいる、聖なる存在。
アーモンドの物語には、いつもこのキーワードがある。
「ヘヴンアイズ」の中にも、川底の汚泥の中から、そのままの
形で発見された聖人・・というモチーフがありましたが。
この、スケリグという存在が何なのか、明確な答えは書かれて
いないものの、やはり、これは「天使」をイメージさせます。
しかし、この「天使」は、アオバエを食べ、アスピリンを食し、
テイクアウトの中華料理が好みという、一般的なイメージの
天使とは、程遠い雰囲気。
マイケルに教えを垂れるわけでもなければ、何かを告知することも
予言することもない。な〜んにもしない。
時々、マイケルとミナが持ってくる中華と黒ビールをがつがつ食べるだけ。
しかし、このスケリグの背中には・・羽がある。
肩胛骨の位置にある、柔らかで、しなやかな手触りの羽。

自分の家に、この世の常識では計り知れないものが存在し、
息づいている・・その事が、マイケルに、新しい目を開かせ、
命の、この世界の裏側にある、目に見えないものの気配を
教える。自分が、生きて、ここに「在る」こと。
その不思議・・。

マイケルには生まれたばかりの妹がいるのだが、生まれつき
病を抱えていて、マイケルも、両親も、その命が飛び立って
いくのではないかと、はらはらしながら、過ごしている。
マイケルの中で、その妹の命の行方と、スケリグの出現が
分かち難いものとして、結びついていく。
この世界の動かし難い現実は、命を与え、そして、簡単に奪い去っていく。
それを、運命とか、人生とかいう風に受け入れていくしかできない
私たち・・。美しいものにも、汚れたものにも、運命は
同じように降りかかる。残酷だと思いながら、人は、それにあらがう術を持たない・・。

でも、その代わりに、人は「出会う」ことができるんだなあ・・と、
私はいつもアーモンドの物語を読んでいて思います。
マイケルがスケリグという不思議な存在に出会ったように。
心が通じ合うミナという少女に出会ったように。
出会って、眼に見えない心というものを結んでいくことで、人は、
理不尽の中で混沌の中で生きていく力を繋いでいくことが、
やっと出来るんだなあと思うんですよ。
それは、ほんとにささやかな喜び。
この物語の中で、スケリグとマイケル、ミナが手を繋いで、ぐるぐる回って、
笑顔を交わし合う・・。そんなシーンがあります。その3人の背中には
羽が生まれ、足は宙を舞う。
この羽は、目に見えないものを感じようとする魂だけが持つ羽なのかも。
そんな羽を、まだ心に持ってる?そう聞かれたような気がします。

もう一人透明な羽を持つマイケルの妹の名前は、ジョイ。「喜び」です。
生まれたばかりの幼子の無垢な笑顔にあふれる喜びと、このほこりまみれの
スケリグの羽が、命の糸でつながっていく。そんな、アーモンドの独特の詩情が
胸をうちます。「天使」はキリスト教のモチーフなんですが・・。
私は、アーモンドの物語に、いつも氾神的な、土の匂いを感じます。
一つの枠にとらわれない、「命」に対する新しい目を開こうとする営みが
ある。作品中に出てくるふくろうの親子の、なんと瑞々しい生命力に
満ちあふれていること。アーモンドの文章は素敵です。

『愛はわれらを息づかせる幼子、死を追い散らす幼子』
文中に出てくるウィリアム・ブレイクの詩の一節。
生きていること、死んでいくことの美しさと残酷さの中に、何を紡いで
生きていくのか。それを問うことが、文学であり、物語なのかも。
肩胛骨が翼の名残なら、私たちにも、まだあるはず。
自分の心の中から、それを探してみる・・こんな物語を読んでいる時だけでも。
ほこりまみれの毎日ですが、そんな営みをしてみたくなる、そんな物語です。
ほんとに肩に羽のある人・・・一人知ってるなあ(笑)


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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
まず、タイトルがいいじゃないですか。
私自身の肩胛骨は、いつも凝り固まっていて
背中全体が板みたいなので、翼も化石化していそうですが(涙)
しかしその化石さえもが、かつて空にむかって伸びやかに拡がっていた日々をやわらかな光のうちに懐かしく思い返して新たな希望を得ることができるような、ふんわりと大きくやさしく、そして力強い物語でしたね。
地味で、一歩間違えばアウト・オブ・デイトと言われかねない内容だけれど、いい本でした♪

S
2009/07/31 07:13
>Sちゃん
返信遅くなっちゃいました(; ̄▽ ̄)
そう。まず、このタイトルに惹かれて読んだんよねえ。アーモンドの事も、まったく知らずに。
「美しい」ということが多様性に満ちていることを教えて貰いました。希望というものに手を伸ばす時の、怖れや傷つく予感に震える指を、そっと包んでくれる優しさ。アーモンドの繊細な文章に潜む、根源的な力の気配がいいなあと思う・・・。
という話も、今度しようね〜〜♪
ERI
2009/08/02 23:11
こんばんは♪ERIさんのレビューを読ませていただいて、なにやらドキドキして・・・。これはきっと運命の出逢いだと(笑)こんなに・・眠ることも忘れて、夢中で本を読んだのは、子供の頃以来かもしれません。
ちょっと怖くって・・繊細で・・あたたかくて・・それでいて不思議な力をもらえる。生命の輝きに満ちた物語でした

汚濁の中の聖なる存在。それはきっと、目には見えないものを心で見つめることができる人しか、出逢うことはできないのかもしれませんね・・。
私も、色々なものを見れたり、感じることができる子供でした。羽のある小さな人・・。夜中に走る光る馬・・。いつの間にか何も見えなくなってしまったけど、「目には見えないけど大切なものがある。」ということだけは、いつまでも忘れない大人でいたいなぁ。。。と思います。
アーモンドさんの本、初めてですが本当に素敵ですね〜。これから色々読んでいきたいです♪

あ、それと。私もほんとうに羽を持ってる人、一人知ってます(笑)

2009/08/04 00:17
>花ちゃん
コメントありがとう♪読んでくれたんやね!!嬉しいわあ。花ちゃんも小さなころ、いろんな不思議を見てたんやね。私もね、自分の幼い頃に感じたこと・・あの時に見たことが、自分の中の核にあるな、と思うことが多いねん。言葉でうまく説明できなかった分、心の一番深いところで、この世界を、そして見えない物を感じていた気がする・・。そのころの感性と、アーモンドの感性は繋がってるような気がする。他の作品も素敵やよ。ぜひ読んでみてね。

あ・・ほんとに羽を持ってる人に、今度一緒に愛に行けるのが楽しみやね(*^m^*)あの人がいる限り、私はきっと永遠の少女です。花ちゃんも一緒やね♪ ERI
2009
ERI
2009/08/05 00:42

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