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zoom RSS 乙女の密告 赤染晶子 新潮社

<<   作成日時 : 2010/08/24 20:29   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 2 / トラックバック 2 / コメント 3

画像芥川賞受賞作品です。
芥川賞の作品を、久々に読んだなあ・・。
で。結論は・・わかりませんでした(わからんかったんかい!)
結論、早すぎですけど、わからんからしゃあないですねえ。
わからんから、何にも書かんとこうと思ったんですが、
気になったのはアンネ・フランクを題材にしてある、という所。
アンネの日記は、私も少女の頃、とても愛読した本なんですよ。
そのアンネを、どういう風に小説にしてあるのか、自分なりに
一生懸命読んでみたので・・何がわからんねん、というのを、
ちょっと書いてみたくなったという事で。

舞台は、関西の外国語大学。ドイツ語のスピーチゼミ。
乙女の巣窟です。この「乙女」というのが、この小説の
大切なキーワードなんですね。
主人公のみか子を含め、この作品内に登場するのは、
皆「乙女」なんです。「乙女」でないと、所属できないコミュニティらしい。
そのスピーチゼミでは、乙女も「黒ばら組」と「すみれ組」という
二つのグループに分かれていて、どちらかに所属しなければ
ならないらしい。宝塚の世界・・というか、池田理代子の「お兄さまへ」の
世界じゃないか(笑)(古っ!!)
その乙女の世界から、はみ出すことを極端に畏れるみか子たちの
ドタバタ劇と、ユダヤ人というくびきを背負って、「国」という所属から
外れ、隠れ家に身をひそめていたアンネの苦しみが、「乙女」を
キーワードにして、結びつけられていく・・というのが、この小説の
図式です。

テーマとしては、わからない感じでもないんです。
人間として、人の群れの中で生きていると、ある切り口でひとまとめにされて
「個」を踏みにじられてしまうことは、よくある事です。
それは「国籍」という切り口かもしれないし、「男」「女」という切り口かもしれない。
その切り口は、時々思いがけないところからやってきます。
何年か前、「くたばれ専業主婦」という呪文が吹き荒れた事があって(笑)
私はあの時、「そうかあ・・こういう切り口でも、人は人を貶めることができるんだ」と
感心した事があります。今から思うと、何であんなにあの切り口が
盛り上がったのか、わからないですが、やたらに対決を煽られましたよねえ。
要は切り口なんて、何でもいい。たとえ理不尽でも何でも、その時のうっ憤を
晴らすことのできる要素が幾つかあれば、いいんです。
誰かを見下す快感というのは、人の心に中に常に巣くっているものだから、
そこに火を付けてやればいい。簡単に燃え上がります。
あの頃、ユダヤの人たちが、なぜ迫害されなければいけなかったのか、
「自分の頭で」考えた人は、そうたくさんはいなかったに違いない。
大多数が、普通の、おっちゃん、おばちゃん、もしくは、お兄ちゃん、
お姉ちゃんだっただったはずです。皆が言うから、そうかな・・と
思って流された人が、たくさんいたんじゃないか。
この小説の中で、乙女たちが、ひそひそ話の輪の中で、誰かを
スケープゴートにしていったように。何かをスケープゴートにする時、
人は、攻撃する相手に、一人一人名前と心があることを忘れてしまう。
アンネは収容所に連れていかれ、名前もはく奪され、記号で呼ばれてしまう
存在になってしまった。私たちが「アンネ・フランク」という名前を口にするたび、
思い返すたび、想いだすのはその事なんだと。
日記に自分だけの想いを綴り、オシャレで、たくさんの夢を持っていたアンネと
いうたった一人の少女を、その少女の名前を、繰り返し獲得する事が、
人間を「他者」という存在にしない、唯一の手段だという事。

「たった一人」に寄り添うことが、小説のもつ営みだと私も思っているので、
そういう意味では、この作品に共感する要素は、ちゃんとある。
しかし。その、「個」と「他者」を語る上で、重ね合わされるものが、
何で、片方がアンネ・フランクで、何で、片方が「乙女」やねん、という
そのアンバランスさに、どうも最後まで馴染めなかった。
このみか子たちの繰り広げるドタバタは、小中学校でよくある、
女の子のグループ同士のごたごたそのものなんですよねえ・・。
「○○先生、あの子を贔屓してはるわ」
「え〜〜?なんか、あるん?あの二人」
「そう言えば、こないだ、二人で話してたやん」
「うそ〜〜〜!!イヤラシイわ」
という、憶測が憶測を生む、連れもってしかトイレに行けない年頃の
女子がやるドタバタです。
それは、確かにややこしいし、乗り越えるのに修練がいるし、
めんどくさいし、うっとうしいもんなんですが。
その、幼い精神の在り方が引き起こすドンガラガッチャンと、
まさに命の危険と隣り合わせに身を潜めていたアンネをめぐる「噂」や
「密告」の在り方を、重ね合わせることは、どうも私には居心地悪い。


でも、もしかしたら、その居心地悪さに何らかの意味があるのかもしれないし。
みか子と、アンネの間の、ちぐはぐな距離感のように、
結局、何だかんだ言うても、皆他人の悲劇なんて、結局人ごとにしか
思ってないんちゃうん、ということを、作者は描きたかったんかもしれん。
そう言えば、オランダ語で書かれたアンネの原文を、ドイツ語で暗唱する、
というのも、けったいなことやな、と。
「オランダ人になりたい」と云ったアンネの言葉を、アンネから国籍を
奪っていったドイツの言葉で暗唱する。そのけったいさに、この乙女たちは
気づいてないわけで・・。その「気付いていない」という部分が、キモなのか。
そうなのか・・。
ラストで、みか子は高らかにアンネのフルネームを宣言する。
その宣言は「密告」、つまり真実を告げるものなのだから、
みか子の所属している「乙女」というわけわからん価値観のゆるさも
同時に密告するものなのか。そうなのか。
つまり、曖昧な価値観に踊らされて、「他」を傷つけようとする、現代の
日本人への警鐘なんか。・・・という事を、ぐるぐる考えているうちに、
わけわからんようになってしまった、というのが正直なところです。

そう。わからなくてもいいんですけどね。
小説なんて、感じるものだから。
でも、どこか、この居心地悪さが座る場所を見つけたくなるんです。
それは、勝手に自分が答えをみつけて安心したいからなのかもしれない。
私はもう乙女ではないけれど、今度は大人のふりをして、自分の見たくない
ものを、見ないようにしている事においては、みか子と大差ないのかもしれないと
思う。・・・やはり、「アンネの日記」は、私にいろんな事を考えさせる、
スイッチのようなものかもしれない。考えなきゃね・・この頭がある限り。

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タイトル (本文) ブログ名/日時
『乙女の密告』/赤染晶子 ○
うわ〜。なんだろう(笑)。 現代が舞台のはずなのに、ノリが『それいゆ』とか『少女の友』の世界なんですが、どうなんでしょう、赤染晶子さん。 なんせ、本書のキーワードは〈乙女〉。 純潔とかね、「黒ばら組」「すみれ組」とかね、「乙女の皆さん、血を吐いてください」とか、「あたくし、実家に帰らせて頂きます!」(byバッハマン教授)とか・・・これは少女漫画なの?! かと思えば、『アンネの日記』を題材にドイツ語スピーチのゼミでは、死にもの狂いでアンネの日記を暗唱し、ナチスのユダヤ人迫害(虐殺)や... ...続きを見る
蒼のほとりで書に溺れ。
2011/04/13 22:32
密告者は誰か・・・
小説「乙女の密告」を読みました。 ...続きを見る
笑う学生の生活
2011/06/08 19:58

コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
何かものすごい熱を感じて、かえって読みたくなりました・・・Eriさんの書評恐るべし。
chess
2010/08/26 21:16
>chessさん
こんばんは。わからないと、かえって気になったりしますよねえ(笑)読んでみられたら、またどう思われたか教えて下さい。待っております。
ERI
2010/08/26 23:48
ERIさん、こんにちは(^^)。
何で現代の女子大生がここまで〈乙女〉であることにこだわるのか?という疑問がむくむくと大きくなって、読んでて「なんだかなぁ・・・」という気持ちになってしまいました(笑)。
バッハマン教授のけったいな振る舞いとか、麗子様の立ちまくり過ぎなキャラとか、笑えるところはたくさんあったんですが、それと〈乙女〉や「アンネ・フランク」というテーマのズレが、ちぐはぐに感じられてしまいました・・・(^_^;)。
水無月・R
2011/04/13 17:57

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