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zoom RSS ふくろう女の美容室 テス・ギャラガー 橋本博美訳 新潮社クレストブックス

<<   作成日時 : 2011/08/13 23:34   >>

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画像昨日書いた『あの日、ブルー・ムーンと。』は、YA世代にぴったりの物語でしたが、この『ふくろう女の美容室』は、もうがっつり大人の小説です。私たちくらいの、人生のあれこれにいい加減疲れてんねん、という気持ちに、じっくりしみ込んでくる感じ。短編が10篇と、エッセイが2篇収録されていますが、一つ一つが深くてぎゅっと濃いので、いっぺんには読めません。一日一つ、じっくりと。そんな感じで読ませて貰いました。

小説の舞台も主人公も、ほんとにささやかな、ごく当たり前の中年から老年を迎えようかという年齢の、今街を歩けばそのあたりを行き交っている人たちです。一見何事もなく、平穏無事に暮らしているように見える、とりたてて大声をあげる必要も、そんな場所も持たないような人たち。でも、その平凡そうに見える人たちの心の中に、どれだけの奥深い迷宮と、ほの暗い洞窟が隠されていることか。やりきれなさを滲ませる、胸をふさぐ大きな塊のようなもの、心に秘めて語らないことを、人は誰しも持っている。語らないから一層深く心に食い込み、抜き差しならなくなってしまうようなこと。人生において、目に見えることなどというのはほんの少し。仕事や家庭で人に見せている顔の奥に、これだけのドラマや葛藤や、語らない想いがあるのだ、ということを、テス・ギャラガーはわかりやすく、しかも非凡な言葉で綴ってみせるんですね。しっかりと二本の足で大地を感じながら、胸の中の星を掴むようなその筆は、高雅な詩情をたたえて、えぐりだされたものを特別な輝きで照らします。ごく身近な・・例えば、夫の浮気、相続のトラブル、仕事仲間のピンはねというような、井戸端会議のネタのような話題から、人という存在が持つ尊厳や、生きていることの儚さをぎゅっと絞り出して見せる。人は愚かで哀しくて。でも、その愚かさや哀しみまでもが、生きている、今存在しているんだ、ということをあぶり出して、ここに描かれるどんな人生も愛しく思える。大したことないな、と思っている自分の人生にも、同じように語らないこと、秘めたことがあって・・その想いとこの小説が響き合って、微かな音楽を奏でてくれるような気さえする。ギャラガ―マジックですね(笑)

ギャラガ―の夫は、レイモンド・カーヴァー。ここに収められている「キャンプファイヤーに降る雨」は「大聖堂」と対になる物語だそうです。「大聖堂」を、実はまだ読んでいない私・・。また、一つ宿題が(笑)そして、「聖なる場所」「父の恋文」は、ギャラガ―の精神史として、小説家を志すもの、その作品を理解しようとするものへの一つの指針として、明快で深い示唆に富んだ文章だと思います。これだけでも、読めて良かった。日常を新しい光りで洗い流してくれるような。この場所に滞在して出てきたら、少しだけこの人生の景色が違って見えるような。そう・・腕のいい美容師さんに、心のメンテナンスをしてもらうような、しみじみと味わい深い一冊でした。

2008年7月刊行
新潮社

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せんきあんてん
&amp;nbsp;昨日のニュースで宇宙旅行が、イギリスの会社が、米ニューメキシコ州の砂漠地帯に、宇宙船が離着陸するスペースボート(宇宙港)を完成させた。乗員2人、乗客6人乗り、高度100キロ・メートル以上の宇宙空間まで行き、4分間の無重力状態を体験しつつ窓から青い地球を眺める。料金が1500万円とか・・・http://ryutao.main.jp/universe05.html連れが、目の中に光のぎざぎざが見えると言う。そんなもんいつも見えてるわいと思いながら、それって目で見てるんじゃなくて脳... ...続きを見る
signal
2011/10/20 11:27

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
>胸の中の星を掴むようなその筆は、高雅な詩情をたたえて、えぐりだされたものを特別な輝きで照らします

素敵な言葉です! ほんとにそうなんですね。苦しいのに辛いのに、どうにも出口なんてないのに・・・星を見て美しいと感じることはきっとできるんですね。

「大聖堂」わたしも読んでみたいです^^
ぱせり
2011/08/16 09:51
>ぱせりさん
出口なんて無い、どうしようもない時だからこそ、星の美しさが胸に沁みることってありますね。この本の表紙の月のように、どこからも見えるのに、自分にだけ語りかけている光りだと思えるような、そんな物語たちでした。「大聖堂」読んだら、ぱせりさんの感想聞かせて下さい。私も読んでみます。
ERI
2011/08/16 23:07

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