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zoom RSS ふたりのイーダ 松谷みよ子 司修絵 講談社

<<   作成日時 : 2012/08/15 14:38   >>

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画像私が言うまでもなく、非常に有名な作品です。映画にもなってますね。この作品が書かれたのは1969年。私が、まだイーダの年齢に近い頃です。それから40年以上が過ぎましたが、この本はずっと読み継がれています。8月6日になると読み返す、という人がたくさんいることを先日ツイッターで発見して、思わず再読しました。

この作品は、戦争文学としてとても有名なのですが、ファンタジーとしてもとても素晴らしい作品だということに、改めて気づきました。松谷さんは、異世界への扉を開く鍵をお持ちの方です。夏休みに長い旅をしてたどりついた町。古いお城のお堀。歴史を感じさせる町の、時間が止まったような夕暮れ。そこを、コトリ、コトリ、と小さな椅子が足をひきずって歩く。「イナイ、イナイ、ドコニモ、イナイ・・・・」読者は、もう、どうしたって、主人公の直樹と一緒に、この謎の行方を知りたくなります。読者を、まず物語に引き入れる。その文章の力が凄いのです。そして、誰も腰掛けることのない椅子は、「不在」を強く訴えかけます。椅子は、自分に座るべきはずの、たった一人の人を待っているのです。それは、椅子にとって、ゆるがせに出来ないことなのです。だから、椅子は、何度も何度も直樹と言い争いをします。直樹の妹のゆう子を、自分のイーダだと言ってきかないのです。ここには、他の誰でもない、広島の原爆の日にいなくなってしまった何十万人の中の、たった一人の不在が描かれます。そして、その不在は、今ここにいる、イーダの可愛い命の輝きに照らされて、ますます濃く、深く穿たれます。

すぐに「イーダ」としかめっ面をするから、「イーダちゃん」と呼ばれている可愛いゆう子。周りにたっぷり可愛がられている、3歳にまだならないゆう子の可愛い仕草や無邪気さを、松谷さんは心からの愛情を込めて描き出しています。「さよなら、あんころもち、またきなこ」という無邪気なご挨拶を、何度もゆう子は繰り返しますが、椅子にとって永遠とも思えるような長い「昨日」の果てに聞いた、この言葉が、どんなに椅子の寂しさに響いたか・・・想像するだけで胸が痛くなります。椅子の前で、20年以上も前のイーダと、重なるようにふるまうゆう子は、椅子の願いに感応して、彼が強く待ち望んでいたイーダになっていたのかもしれません。幼い魂が持つ感応性の不思議さは、命がはらむ人智を超えた重みにも繋がっていきます。民話の採集などにも精魂を傾けておられる松谷さんならではの死生観が、この作品にも流れています。「ただないたり、手をふったり足ばたばたさせていよる赤んぼうは、人間が生きてきた、気も遠くなるような時間の重みを、一心にせおうて生まれてきたといえるんじゃ。」これは、ゆう子のおじいちゃんの言葉です。だからこそ、空っぽになってしまった椅子に座る子に、替わりはいないのです。

直樹は、この出来ごとを通じて、初めて原爆というものの恐ろしさを、自分の心の奥底まで届かせることが出来ました。それは、私たちも同じです。じっと誰もいない家でイーダを待ち続けていた椅子の心を知ることで、私たちは何度も何度も「あの日」を体験し、知ることが出来るのです。椅子の待っていたイーダは誰なのか、この物語では最後に謎解きがされます。松谷さんは、その最後の謎解きをする人物であるりつ子が浮かんだときに、一気に筆が進んだといいます。(※)それは、松谷さんが、りつ子の姿に希望を見出したからではないでしょうか。自分の血のつながった家族が死に絶えたことを知り、原爆の後遺症に苦しみ、それでも「わたしは女の赤ちゃんをうみましょう。そして、小さないすにおすわりさせましょう」と語るりつ子に、松谷さんは血を吐くような未来への希望を託されたのだと思います。でも、あれから40年以上が経った今、私たちは相変わらず核の恐怖の中にいる。そのことにため息をつきつつ・・・だからこそ、何度も何度も、この物語のことを語らねばならないと思うのです。

※『原爆児童文学を読む』(水田九八二郎 三一書房)に所収されている「ふたりのイーダ」の項を参考にしました。

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