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<<   作成日時 : 2012/08/19 00:19   >>

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画像今、職業教育というのが、早くから行われています。自分の好きなこと、将来の夢を見つけて、そこに向かって努力しましょう、と小学生の頃から言われたりします。文科省の答申でも、小学校高学年の目標として「憧れとする職業をもち、今しなければならないことを考える」「将来の夢や希望を持ち、実現を目指して努力しようとする」なんて書いてある。将来の夢や希望が早くから見つかれば、それは素晴らしいことだと思いますが、たかだか10年くらいしか生きてないのに、将来何になるか考えなさい、っていうのは酷なことですよねえ。思うにこれは、早くから夢に向かって邁進できたら、「無駄がない」という、経済投資的な発想なんじゃないかと思うんですが。でもねえ・・・昔みたいに、町内に一通りの職業がそろっていた時代じゃないんですよ、今って。全ては一か所に集中投資され、それが世界中に分配される。その中で、人がどんな役割をしているかなんて、子どもに見えるわけがない。たった数日、近所のお店で職業体験してみたところで、何がわかるわけでもない。かえって、「ふーん、こんなもん」みたいなことしか見えない結果になるんじゃないの、と思う。目隠しされて、さあ走りなさい、といわれても困るよねえ、としみじみ思うのです。仕事って、要はご飯を食べていくということですから。なりゆきでそこにたどり着くことも多いし、回り道だと思ったら、そこにふっと先が開けることもあります。あんまり早くから、先を見ろ、先を見ろと言わない方がいいように思うんですが・・。もうちょっと落ち着いて考えたり、やり直しがきいたりする時間や機会を持てるようにするべきなんじゃないかと思います。

この物語の主人公のカンナも、「夢」という言葉に敏感になっています。カンナはもう12歳。「お花屋さんになれたらいいなあ」とか「ケーキ屋さんになりた〜い」とかいう、ふわふわ綿菓子のようなことは、もう言う年齢じゃありません。自分の周りの人たちが、家族も含めて、皆それぞれに夢や目標を持って努力している中で、自分だけ仲間はずれになっているような気がする。具体的な夢を持っていない自分に焦る。物凄く悩んでるわけではない。でも、いつも胸の中のどこかにある、霧の晴れない部分にもやっとする女の子の気持ちを、とても丁寧に描いてあります。その描き方の空気感が、とてもいい感じなんです。描きこまれているディテールが、キラキラしてるんですよ。カンナの家に同居しているいとこの真水ちゃんと作る、美味しそうなレシピが紹介されていたり、ふっと人と心が通うシーンがさり気なく書き込まれていたりする。ふとした日常の中にある小さな喜びがたくさん詰まっているんです。この物語に登場する人たちは、皆が「今」を一生懸命生きている、それが伝わってきます。そこがいいなと思うんです。

「どうして、おとなの人って、こんなふうにわかっちゃったように話ができるんだろう、あいだをとばしてる気がする。ずっとわたしが悩んでることも、まるでこたえがわかってるみたいだ。なのに、なにもほんとうのことを教えてくれてない気がする。」

これは、二者面談の時に、お父さんと先生の会話を聞いてカンナが思ったこと。そう、この物語は、カンナに、これという解決策を用意しているわけではありません。だってねえ。「夢を持つ」ということ、いかに生きていくのかということ、自分がどこに向かって歩いていくのか、なんてこと、大人だって自信に満ちて語れるわけじゃないですから。そんなことが簡単にわかるなら、小説なんてほとんどいらないわけですから。(笑)ただ、否応なく食べていかなきゃならんわけで、その毎日の中で、なんとか日々を送っているのが大概の大人というものです。でも、その中で、私たちはやはりより良い人生を送りたいと願って生きている。その「より良い」価値観をどこに置いて生きるのか。何に心を込めて生きるのか。この物語は、ディテールでそこを語ろうとしているように思います。詰まるところ、人を前に向かせる力というのは、先に何かいいことが待ってるということではなく、「今」を心込めて生きることなのかもしれません。うーん・・これは、私自身への課題でもありますね。カンナと一緒に、いろんなことを考えさせられました。情報ばかりが溢れ、ややもすると無気力に陥りかねないほど先が見えにくい時代に生きる子どもたちへのエールや暖かい眼差しを感じる物語。読後感も爽やかです。

2012年7月刊行
小峰書店

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