JJをさがして アン・キャシディ 子安亜弥訳 ランダムハウス講談社

画像幼い時に罪を犯してしまった子どもは、その後
どういう人生をおくるのか?
ふと考えただけでもいくつもの事件を思い浮かべる
ことができる今、それを考えたことにない大人は
いないんじゃないか、と思う。この物語は、10歳の
時に同じ年の少女を殺してしまった女の子の、その後の
物語。

全編が緊張感に満ちている。
常に張り詰め、ひと時も「あの時」のことがわすれられない
ジェニファーのおびえと苦しみに、読みながらふとした物音
にまで反応してしまった。ジェニファーは今16歳。
六年間の服役のあと、保護観察処分付きで釈放になって
まだ半年。優しくて包容力のあるロージーとともにくらす
ジェニファーは、名前もアリスと変え、コーヒーショップで働きながら
9月からの大学入学を待っている。恋人もでき、一見うまくやっている
かのような彼女だが、心の中ではいつもおびえている。
10歳の子が犯した犯罪というセンセーショナルな事件を
世間は忘れていないからだ。そして、彼女が母親に送った
一枚のバースデイカードから、彼女の居場所をさがしに探偵が
やってくる。なんとかその男はやり過ごしたジェニファーだが、
また新たな追求の手が・・・。

ジェニファーの犯してしまった犯罪は、彼女の母親のネグレクト
(育児放棄)が強く影響している。母は、美しいが全く生活力がない。
あちこちにジェニファーを置き去りにして、ほったらかしにしてしまう。
モデルである母は、正規の仕事がなく、なにやらいかがわしい
事をしているらしい、とぼんやりと気づくジェニファー。
そんな生活の中で、初めてできた友達であるミシェルを
ジェニファーはとても大切に思う。しかし、母の秘密を
知られてしまい、それをなじられたことで、ジェニファーは
それまでの色々な思いが爆発してしまう・・。

もちろん、どんなことがあったとしても、人一人の命を奪った
ということは許されないし、消えない。それは一番ジェニファーが
わかっていることなのだ。
「友達を殺したあの日、ある意味ではジェニファーも死んでしまった」
のである。恋人のフランキーと一緒にいても、ジェニファーの心は
いつもおびえている。自分はこんな幸せを受け取ることができる
人間なのか、といつも考える。そして過去を告白したときに、フランキー
から手ひどく拒絶されてしまったときも、ジェニファーはそれを黙って
受け入れる。彼女のこの思いはきっと一生続くのだろう。
しかし、犯罪を犯した一瞬には、そのことは彼女の脳裏には
思い浮かばなかったのだ。そこに至るまでの彼女も悲しい。
ある意味、母の被害者とも言える彼女なのだが、加害者と
なってしまった彼女は、罪とそのことにつきまとわれる一生を
おくらねばならない・・。初めてであった優しい人であるロージー
に必死にすがるジェニファーの心が痛々しい。

しかし、この物語で、彼女はまだ16歳。
まだ自分の罪と向き合うところまでには、至っていない。
とにかく自分の名前を変え、別人になり、自分の人生の一歩
を踏み出すのに手一杯なのだ。もちろん被害者の家族にも
一度もコンタクトも取れず、そのことにどうやって償っていくのか、
というスタンスのスタートラインにもつけていない。
この物語は、彼女の長い旅のはじまりにすぎない。
大人になり、誰かを愛し、結婚し、子どもを生んでも、
彼女の心はいつも揺れて張り詰めて、そのつど傷ついて
いくだろう。彼女ができる償いとはなんなのか、結局それを
自分なりにみつけるまでは、彼女は死んだままなのかもしれない。

イギリスでは、未成年でも名前を公開されるらしい。
この物語を読む限り、まだ人生の基盤ができていない年齢で
それをされてしまうのは、なかなか辛いことだと思う。
しかし、ひるがえって被害者の立場から見れば、どうなのか。
自分の子は帰ってこない。でも、加害者は権利として守られ、
その後普通に人生を送っていく。それが理不尽である、という
思いは消えることはないだろう。加害者が本当に自分の罪を
悔やんでいるのか。それさえもわからない、とすれば・・。
多分このような事件、犯罪はこれから減ることはあるまい。
その度に、私達は衝撃をうけるけれども、そこから始まる
加害者と被害者の辛くて長い旅を知ることは、あまりない。
この物語は、加害者の立場からそこを描いた力作、といえると思う。
イギリスでブックトラストティーンエイジ賞を受けた作品です。

おいしい本箱 http://www.oishiihonbako.jp/detail.php?book_no=001053

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