八月の路上に捨てる 伊藤たかみ 文芸春秋

画像芥川賞受賞作です。
むりくり一冊の本にしました、というのが匂う本ですが(爆)
この際、それは仕方ないですね。旬のときに発売しないと・・・。
文芸春秋の活字で読むのがちょっと苦手なんで、単行本の発売まで
まってた私としては、うれしい限りでございます。

短編が二つ。これは、こういう形の短編を一冊の本にしたときに、不利ですね。
私は短編集というのは、それぞれの作品が響きあう小さな宇宙だと思っているんで・・。
二つじゃあ、そういう雰囲気を作るには、やはり足りない。
特にこの小説は、あらすじがはっきりある、というものではなく、一日の「気分」を
追ったもの。八月の路上の空気感を読者の中に残して響かせる小説なんで。
やはり、こういう作品の連作の中にあったほうが、存在感が際立つのではないか
と想像します。そういう意味では、芥川賞をとったことで、これだけがポン、と
単行本になるのは、ちょっともったいない気もしました。

前にも書きましたが、私にとって伊藤さんはヤングアダルトの書き手という認識だった
んです。だから、文芸畑のものは、これが初読み。


感じるものはいろいろあった。
今日離婚する敦の夫婦生活。
夫婦の間の、微妙な綱引きのような力関係のあれこれとか。
夢を追う、ということのしんどさとか。
なぜか、伝えたいときに伝わらない、言葉のもどかしさとか。
そんなものはいちいち頷けるものがあって、「ふんふん、そうやね、わかるわかる」
と思える。もう今離婚のしんどさにぐずぐずに崩れかけてる男なんですよね。
真剣に生きていても、どこか滑稽なすれ違いを生んでしまう、人生に対する哀感。


そして、その敦より先に離婚している水城さんという女性と、彼の対比。
一人でガラガラと自動販売機にジュースを投げ込んでいく彼女には、
「過去」を自分の手で清算していく強さを感じる。
背筋の強さは、女の強さ。どこかへ向かっていこうとする意志。
それだけが八月の異様に蒸し暑い、熱を放つアスファルトの上で清涼感を放っている・・。

そういうことは、この短編の中から拾えるし、一気に読めてしまう、という
ことは文章も悪くない。
でも・・この短編が、総体として私に何を訴えてきたのか、と思うと・・わからなくなってしまう。
いや、いいんだよ、さっき述べた空気感を感じるだけでいいんじゃないの、という
読み方でもいいともいえるんですが・・。
芥川賞をこれでとっちゃったから、何か気の利いたことをいわなくちゃならん、と
思うほうがあかんのかも。噛み切れないもどかしさは残りつつ・・。
そして、もうちょっと何かを見せてほしかった、とも思いつつ。


伊藤さんの長編が読みたいな。
うん、今後に期待、ということで。

おいしい本箱 http://www.oishiihonbako.jp/index_f.php








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この記事へのコメント

2006年09月21日 01:37
う~ん、なるほど、水城さんってこんなふうにとらえるんだ、と「おいしい本箱」さんのこの文章、私にない感性。

<そして、その敦より先に離婚している水城さんという女性と、彼の対比。
一人でガラガラと自動販売機にジュースを投げ込んでいく彼女には、
「過去」を自分の手で清算していく強さを感じる。>
2006年09月22日 01:45
>よっちゃんさん
コメントとTBありがとうございます。
おほめ頂いたのに、肝心のこの小説のカン所が私にはわからなくて・・(汗)芥川賞に踊らされている自分がおります・・(苦笑)
モンガ
2006年11月12日 23:08
こんばんは。
結婚というのは、どうもわかりません。
何の制約もない同棲なら、うまくいっているのに
結婚すると責任とか、将来とかが付きまとってくる
ようです。水城さんとの対比は、巧く取り入れて
ありましたね。最後に再婚とわかるのも、オチでしょうか。