ドーム郡ものがたり ~ドーム郡シリーズ 1~ 芝田勝茂 小峰書店

画像三部作からなる、壮大なファンタジーです。これは、1981年に福音館から発売されたのを、小峰書店から再刊したもの。時間の流れを感じさせない、確固たる世界を持っている物語です。「物語」というものが持っている力を、ひしひしと感じることができました。

舞台は、ドーム郡という山に囲まれた小さな国。昔、さすらいの旅人によって作られたという、ドーム郡。今は平和なこの国に、ひっそりと一つの危機が迫っていた。人々の心を荒らし、滅亡へと導く「フユモギソウ」という花の群れがドーム郡の近くまで迫っていたのだ。その危機を救うためにある任務を背負わされた少女、クミルが主人公。その花の正体と退治する方法を知っている「ヌバヨ」という謎の男を探し出し連れてかえること・・。ほとんど手がかりもないままに出かけなければならなくなったクミル。彼女は、ヌバヨを見つけられるのか?

人間というものが持つ、両面。光と影と呼んでもいいし、正と邪とも言うかもしれない。光に向かうか、闇に向かうか。そして、一つの物事にも、必ず両面はある。どちらから見るか、どちらから光を当てるか。それによって、全く見え方は違ってくる。その揺れ動く価値観や内面の、何を選んで生きていくのか。それは、どんな意志の力によるのか。この物語にでてくる鏡のようにその両方を写しながら進行していくこの物語は、自分を試す旅。旅を終えたあとのため息は、大きな旅を終えた満足のため息です。

クミルは、父も母もいず、森のなかで鳥や動物たちと心を通わせて生きていた少女。しかし、そこから出て、「人間」の世界の中に入っていったところからお話が始まります。学校の先生として生徒たちと、歌って踊って過ごしていたクミルですが、そんな彼女がその使命を背負わされるきっかけになった事件が、面白い。生徒の一人が、川に落ちたことを、クミルのせいにしたからなのです。見ている人はいいなかった。当事者の話だけでは、真相は藪の中・・・。そんなもやもやしたところから始まる旅。

見たこともないコノフの森を探して。そして、見知らぬヌバヨを探して。でも、その旅を続けるうちに、クミルは様々な自分と出会うことになります。山賊に襲われた恐怖から、この世の全てがいとわしくなってしまった夜。彼女は、自分の背後に一本のフユモギソウが生えているのを見る・・・。自分の運命を、自分を捨てた親を、全てをうらむ夜。こんな夜は誰にでも訪れる。そこに、フユモギソウが見えないだけで。道案内のかかしに出会っても、彼は手助けはしてくれるけれども、答えはくれない。木の精霊に出会い、様々な森に出会うクミルは、最後にたった一つの自分の森にたどりつく。それは、自分が暮らしていた、あの森だった。・・・ぐるっと一周して自分に帰ってきたクミルは、自分が何をすべきか、わかっていた。フユモギソウは、心のほころびに入り込む、もう一人の自分につけこむらしい。自分と違うものを許せない自分。価値観の違うものを徹底的にやっつけたい自分。たった一つの見方で世界を二分してしまう、あやうさ・・。フユモギソウは、そこに繁殖して、人々の心を凍らせる。それに対抗するにはどうすればいいのか。それは、シェーラの昔に立ち戻ること。皆で歌って、踊って、心を一つにすること。どうやら、その場所にはフユモギソウは立ち入ることができないらしい。そう気づいたクミルは、ドーム郡をあげての夏祭りの準備にとりかかる。

・・・こう書くと、この物語がクミルの、光の側からのみ進行しているみたいだけれども、この物語の骨太さは、クミルに反対する立場からの意見も、そっくり内包しつつ進んでいく。クミルの心の内側。そして、クミルを取り巻く人々の心。そして、この国にいるたくさんの人々。それぞれの両面をより合わせながら、この物語は大きな川を作っていくようだ。そして、その川の中心に立っている、クミルという少女の正直さと清冽さがひしひしとこちらに伝わってくる。やさしい道案内のかかしに惹かれ、よりかかりたいと思いながらも、歯をくいしばって自分の最後の任務に赴く彼女は、美しいなあ・・。それは、手の届かない美しさではなくて、誰もが心に持っている美しさなのかもしれない。でも、それを呼び覚ますのは、こういう物語の力なんですよね・・。

皆で、歌って踊ること。無心に、美しいものに心を開くこと。音楽というものが持つ、原始の力。この世に音楽が生まれたときのような喜びが人々の心のくさびを、抜いて解き放つ・・・。これは、よくわかります、感覚的に。音楽の前では、みんな平等なんだわ。その人がどこの誰で、どんな人生を送ってきて、どれだけお金や地位があって、どんな価値観で生きているのか、そんな様々なことは、音楽の前では、全く関係ない。ただ、その美しさ、二度と帰ってこない、音楽が奏でる至福の一瞬に耳を傾けて心がそこにむかって開いていく。「美」をうけとろうとする。何かの鼓動を感じようとする。それは目には見えないけれども、確かな手触りで、心に残る大切なもの。

毎日、心を重くするように繰り返されるニュースの数々・・。すさんでいるのは、子どもの心だけじゃない。役にたつもの、目にみえるもの、すぐに手に入るもの・・・。それを手に入れる方法だけを追求して生きてきたツケなのかもしれないよな、と思ったり・・。このドーム郡の物語はファンタジーだけれども、この形で作者が書きたかったものは、今欠けている何か、なのかもしれません。大人も子どもも、ぜひ読んでいただきたいファンタジーです。

このシリーズは、前書きにもあるように、ドーム郡の小史。このあとに、どんな物語が展開するのか。楽しみです。



http://www.oishiihonbako.jp/detail.php?book_no=001140





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