竜が最後に帰る場所 恒川光太郎 講談社

画像恒川さんの幻想は、いつも心の琴線に触れてくる。
どこか郷愁を誘うような、繋いだ手の記憶に心が疼いて
痛くなるような、そんな幻想。そう・・幻想というより、
やっぱり「記憶」なんだな。この脳だか、心だかの、
遥かな場所と繋がる所に、帰っていく。そんな感じ。
その遥かな場所は、やはり「死」の匂いがします。

一つ目の「風を放つ」は、日常の中に空いた、小さな亀裂。
ぽっかり空いたそこに足を突きいれてしまった
ぬるっとした気味悪さが背筋を撫でる・・くらいですむから
まだそんなに怖くない。それが「迷走のオルネラ」では
一気に爆発して、読んでいて汗が手に滲んでしまう。
いわゆるDVを題材にした短編なんだけれども、
蒸気の蓋がぱくっとあくような、暴力の怖さの描き方も
きりきり心に喰い込みつつ、恒川さんらしいな、と思うのは
彼我が曖昧になっていく所。かって母親を殺された男が、
加害者の男の出所を待ってマインドコントロールを施し、
子どもを虐待をする男を殺す役割を担う人格を作り上げる。
単なる復讐ではなく、かっての自分のような子どもを救う役割を
させることで償いをさせる・・という図式なのかもしれないけれど、
私には「償い」というよりは、物語の共有に思えた。
ゆがんだ共有だけれど、そこに至るまでの主人公の男の子の
道のりが、とても切ない。ただの復讐で終わらせられないくらいの
傷が痛いけれど、これは恒川さんなりの暴力の連鎖に対する答え
なんだと思う。辛い話なのに、どこか救われる感じがするところに
恒川さんの優しさを感じてしまった。もちろん暴力は許し難いの
だけれど、その連鎖をどこで断ち切るか、という事はこれもまた、
重い命題ですよねえ・・。

「夜行の冬」と「鸚鵡幻想曲」は、リアルな、「あるわ、これ」シリーズと
言わせて頂きますよ。もう、「ある、ある~~!」と叫んで、
ピンポンいっぱい押したい気持ちです。昔、そんなクイズ番組
あったじゃないですか・・何でしたっけね。

「夜行の冬」は、夜中に鳴る鈴の音について歩くと、
これまでの世界とちょっと違う場所にたどり着いてしまう、
という夢魔の繰り返す幻想。
歩き遅れたら、ぱっくりと暗闇に呑み込まれてしまう感じとか。
ヘンテコな座敷で異形のものたちと食卓を囲む空気感とかが
もう、昔に夢で見たことあるよ、という変なリアルさに満ちてて
背筋がぞわぞわします。でも、この鈴が鳴りだしたら、ついていきたく
なる感じもわかるなあ。私は寒がりやから、冬はあかんかもしれんけど。
(そこかい!)
「鸚鵡幻想曲」の、擬態しているものを一気に解き放つ感覚も
何やら非常な快感を伴ってこの記憶にある。確かに、ある。
擬態しているもの・・たくさんのものが集まって一つのものに
化けているものの芯を押すと、ざあっとそれが崩れていく。
気持ち悪い。でも、その快感が指から伝わってくるのは何で?(笑)
恒川さん・・ずるいです。私の記憶、見ました?という妄想を誘う
むずむずする快感が魅力です。気持ち悪くて、気持ちいい・・って
いう、この後ろ暗い喜びは、何なんでしょう。
一脈、性的快感にも繋がるものかもしれませんね。その証拠に、
ばらばらに鸚鵡となって解放された人が、恋することによって、またその
形を取り戻していきますから。

最後の「竜が最後に帰る場所」は、そのタイトルの通り、竜のお話。
一匹の竜が成長していく姿と、生き物が持つ命の輝きと悲哀が
見事に重なって美しい一篇になっています。
「竜が最後に帰る場所」は、どこなんだろう。
宮崎駿さんが書いた、ナウシカの原作、壮大な叙事詩のラストに
現れていた、人間が決して入れない聖地を思い出しました。
私たちの帰る場所は・・人間は全てを汚してしまうから、無いかも
しれないなあ。などと扉を閉じて思ったことでした。

恒川さんのがっつりした長編などを読みたいものです。
次作も楽しみだなあ・・。

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この記事へのコメント

2011年02月06日 00:01
ERIさん、こんばんは(^-^)前に読んだ『南の子供が・・』以来、気持ち悪さが快感な(褒めてます・笑)恒川さんの世界に魅せられてしまいました。
どのお話しも、もしかしたら、ふとした瞬間に自分も足を踏み入れてしまうかもしれないような・・・。どこかリアルで怖くて・・。でもそこがまた気持ちいい(笑)
中でもラストの「竜が最後に帰る場所」その美しさ、壮大さに引き込まれました。
やっぱり大好きだなぁ、恒川さん。私も次の作品を心待ちにしています♪
ERI
2011年02月07日 00:11
>花ちゃん
コメントありがとう♪気持ち悪さが快感、っていうのは私もです(笑)ふと踏み変えた足が、この世界に突っ込まれていても不思議じゃない。いつもそんな想いがします。悪夢のような、記憶のような。気持ち悪くて、気持ちいい・・。物語って、小説ってほんとに怖くて、面白い。「小説は何でもできるんだよ」という言葉が、先日読んだエッセイにありましたが。その通りだなあと思います。私も次の作品を待っておりますよん♪
2011年07月26日 21:28
ERIさん、こんばんは(^^)。
恒川ワールドを堪能しました!
「夜行の冬」でキタキタ恒川世界観!と盛り上がり、「鸚鵡幻想曲」「ゴロンド」とのめり込むように、読みました。
「ゴロンド」のラストは、きっとこの地上ではない場所(別の次元)に竜たちは辿りついたんだろうなぁ・・・と思いました。
私も、次は長編をガッツリ読みたいな~と思います。
ERI
2011年07月28日 00:52
>水無月・Rさん
こんばんは!恒川ワールド全開でしたねえ。別の次元・・そうかもしれないです。そこは、私たちの行けない場所。でも、私たちは魂のどこかで、そこがどこにあるのか知っている。そんな気もします。知っていて、決してたどりつけない場所。恒川さんの物語を読むと、私はいつもそう想うのです。この共有感は、何なんでしょうねえ・・。