小暮荘物語 三浦しをん 祥伝社

画像アパートもの、なんてジャンルは無いんでしょうが(笑)
「風が強く吹いている」の時にも思ったんですが、
こういう連鎖していく人間群像を書くのが、しをんさんは
とっても上手い。ぼろっちい、「小暮荘」。安普請の壁は
ペラペラで、どの部屋の音も筒抜け。
うーん・・・実は、私はこんな建物が大好きなんですよ。
うちの近所にも、こういうアパートがまだ数軒残ってます。
いつから建ってるねん、と突っ込みたくなるくらい古くて、
トタン屋根もボロボロで、しかも線路の真横なんですよ。
電車が通ると、半端なく揺れるだろうと思うんです。
でも、そこにはずーっと人が住んでる。
そのアパートの横には、昔懐かしき一棟式の借家があります。
知ってます?玄関を開けると、共同の下駄箱があって、
ずらっと左右に部屋が並んでるだけの借家。
もちろん、お風呂もトイレも共有です。
私は貧乏生まれの貧乏育ちなので、そういう所が妙に身体に
馴染む。細胞がしっくりくる感じなんで、老後はそういう所に、
身ひとつで住みたい・・と思ったりしますが、多分ぎょうさん出て
くるだろう、あの○キ○リというのに耐えられないかもしれない。
あと、とても寒がりなんで、すきま風は辛いかもなあ。
・・・って、そんな話はどうでもいいんですが(笑)
この物語は、そういう家の窓に灯る、ひとつひとつのあかりの物語。
といっても、家族のハートフルストーリーというわけではなく、
徹底的に「ひとり」の性を核にした短編の連作です。
でも、舞台がこの安アパートだからこそ、一人でいながら、
緩やかに繋がっていく暖かさがある。
これが、きっちりしたマンションなら、本当に孤独な、徹底的に
寒々しい話になってしまうところです。


性というのは、徹底的に個人的なこと。
なのに、当たり前な事ながら、自分一人では、どうしようも身動きが
とれなく、かつ、本能に大きく根ざしているから、抜き差しならない
衝動を湛えてもいる。非常にデリケートで、かつ野蛮なもの。
当たり前のように、文学においても、「性」は大きなテーマ、というか
もうどの分野においてもその影が落ちないものはない、というくらい
どでかいものですが、正面から扱うのは、けっこう難しい。
特に女性が書くと、「女の性」的な、どろっと、ぬめっとしたものに
なりがちで、私はそれが非常に苦手だ。
一番好きなのは、田辺聖子さんの一連の作品群かなあ。
常にユーモアを湛えている、その視点がいい。
自分を突き放す客観性の目が、「人間」の奥深くに届いていく
感じがいいなあと思うんです。

しをんさんのこの連作も、それぞれの「性」のこっけいさに、ぴしっと
スポットライトが当たっていく。女子大生の部屋を覗き見する男。
老境に差し掛かって、いきなり「他人とセックスしたい」と焦る大家さん。
その視点は、『柱の実り』のような、切ない作品にもある。
通勤者でごった返すホームの柱に、リアルな形で生えるキノコ、なんて
よく思いついたもんだと思う、想像しただけで赤面する情景です。
むき出しのものは、滑稽なんですね、いつも。
人間、何だかんだ言っても、こういう滑稽さを、万人が抱えているんです。
それぞれが、抜き差しならない「性」を抱えて生きている。
人間って、それ以上のものでも、それ以下のものでもないんじゃない、という
しをんさんの問いかけが、私には聞こえるような気がしました。
裸になれば、みんな同じものを、でも、たった一つだけの大事なものを持っている。
小暮荘の住人たちの密やかな秘密を教えてもらったあとは、彼らのともす灯りが
愛しくなる。放浪から帰ってきた並木がいう、
「あなたが好きです。あなたと繋がりたい」というシンプルな願いに、
自分も一緒に、灯りをともしたくなる。そんな物語たちでした。
今年は寒い冬になるとか。こたつに蜜柑、で読むのに相応しい一冊だと思います。


2010年11月発行
祥伝社

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この記事へのコメント

2011年10月13日 13:43
ERIさん、こんにちは(^^)。
ぼろアパートで緩くつながる人間関係が、暖かかったですね。
悩みが切実で、苦しくても、みんな一生懸命普通の顔をして生活していくんだなぁ、と感じました。
そんな中にも笑えるようなポイントがあるしをんさんの文章が、ホントに好きです。
ERI
2011年10月21日 01:53
>水無月・Rさん
いつもコメントとTBありがとうございます。
私、ぼろアパートって何だか好きなんですよ。生まれも育ちもそうだからかもしれませんけど(笑)
昔の長屋みたいで、ただ暮らしてるだけでも、なーんとなく繋がってしまうゆるさがね、人間臭いなって思います。でも、一人でも困った人がいると大変なのも、身に沁みて知ってるんですけどねえ(笑)
「一生懸命皆普通の顔をして生活してる」。ほんとです。普通って、なかなかしんどいことです。「あー。しんど」って言い合えるような、しをんさんの物語は、あったかでしたね。