闇のダイヤモンド キャロライン・B・クーニー 武富博子訳 評論社ミステリーBOX

画像物凄く古い話なんですが。昔、「花々と星々と」という犬養道子さんの連載を、母が買っていたミセスという雑誌で読んで、アメリカという国へのあこがれを募らせていた時期がありました。そこには、弱いものに手を差し伸べ、自主独立の気概を持ち、常に正義を意識する良きアメリカが描かれていたんですよね。犬養道子さんと言えば筋金入りの上流階級。今にして思えば、彼女が触れたアメリカは、庶民のアメリカではないわけですが。そののち、繰り返される海外出兵なんかを見るにつけ、いろんなものを読むにつけ、アメリカという国のメンタリティに、いろいろ考えるところが増えました。しかし、今日この本をじっくり読んで、私はその昔の良きアメリカに対して感じていた気持ちを、ふと思い出しました。

アメリカの東海岸に住む中流階級のフィンチ家では、ボランティアに熱心な夫人に押され、アフリカからの難民の一家を一時受け入れることになる。自分の部屋を一緒に他人と使うことを嫌がっていた長男のジャレットだが、妹のモプシーは、無邪気に嬉しくて仕方ない。やってきたのは、内乱で手を失ったアンドレと妻のセレスティーヌ、高校生のマトゥと、その妹のアレイクという4人。何しろ、アメリカという国の何もかもが初めての彼らに、フィンチ家は右往左往する。しかし、この4人は、どこか家族として不自然なのである。親子なら当然あるはずの気遣いもないし、何より、一言もしゃべらず、死人のように感情を表わさず座っているだけのアレイクという少女に、他の3人は話しかけもしない。この一家には何か謎があるに違いない。そう感じたジャレットは、ある日マトゥの持ってきた祖父母の遺灰の中から、ダイヤモンドの原石を見つける。

このアレイクという少女がなぜ一言も話すことが出来ないのか。そこには彼女の悲惨な過去の事件があるんです。その事件を書くと、ミステリーのネタばれになってしまうので、書きませんが。その過去の事件のせいで、彼女は仲間であるはずの人々からも忌み嫌われているし、何より彼女自身が自分のことを許せない。生きながら死んでいるようなもの。そして、その事件を彼女にもたらした残酷な男が、この難民の一家の秘密に深くかかわっている。ヴィクターというその男は、殺戮も盗みも平気な、恐怖で人を支配しようとする人間。ヴィクターの狙いは、ダイヤモンド―たくさんの人々の血にまみれた、闇のダイヤの密輸なのです。アメリカにマティたちと一緒にやってきたヴィクターだが、幸いなことに難民の受け入れの関係で、彼だけテキサスに送られてしまった。しかし、決してその男が諦めないことを知っているマティたちは、恐怖から逃げることができないままであり、そのことを、フィンチ一家は何も知らない。自分たちの土地に、平気で人を殺戮できる人間がくることさえも想像できない。

この落差が、アメリカとアフリカの若いティーンエイジャーである4人に、色濃く反映されて描かれています。マトゥがアンドレという黒人の同級生の一家と夕食をともにするシーン。大学教授の母と医者の父を持つアンドレの一家は、将来の話しかしない。息子に輝かしい未来があることを信じているから。しかし、マトゥは「安全に暮らしたい」と思う。ただ、夜安らかに眠ることさえ難しい恐怖に縛られた自分と、安全であることが当たり前なアメリカの子どもの違いを痛切に感じるひと時。そんな食い違いや、掛け違いをたくさん繰り返しながら、少しずつ若者たちはお互いを理解し始めます。心が死んだようになっていたアレイクさえ、無邪気に自分を好きになってくれるモプシーや、学校で優しくしてくれる少女たちに少しずつ暖かさを感じ、同級生がくれた子犬に夢中になる幸せなひと時まで得るようになります。しかし、やはり悪い男は少しずつ彼らに近付いてくる・・・その足音が聞こえるように構成してあるところなど、なかなかミステリーとして上手くて、はらはらドキドキです。何しろ、彼がどんなに残虐な男なのかを、アレイクの心のつぶやきで読者は思い知らされているわけですから。恐いです。マトゥとアレイクの抱えている恐怖を想像するだけで、心臓がぎゅっとなるくらい。人は、底なしに残虐になれる。アフリカの内戦の記録などを読むと、呆然とします。以前読んだ『戦場から生きのびて ぼくは少年兵士だった』という本を読んだときも衝撃でしたが・・作者のあとがきによると、アフリカの難民キャンプでのアンケートで61%もの人が家族が殺されるところを見ているということです。その恐ろしい過去ごと、マトゥとアレイクのところにやってくる災いに対して、彼らが、そしてジャレットとモプシーがどう戦ったか。そこはこの物語のクライマックスなんで、ぜひ読んで頂きたいのですが・・。このタイトルの「闇のダイヤモンド」は、密輸されたダイヤの原石を表わす言葉ですが、私にはもう一つの意味があると思います。それは、どんな暗闇でも輝く、心の宝石。自分の命と引き換えに、愛してくれた少女を守ろうとするアレイクと、そのアレイクを、これまた自分の命をかけて助けようとしたジャレットの勇気。これこそが、ダイヤモンドであり、血を流してもお金に走ろうとする欲望を打ち砕く希望だと思います。その宝石を、若い心に託して書いた作者の想いが、伝わってくるラストでした。

赤の他人を自分の家に受け入れ、親切に世話をし、尽力を惜しまない。反面、自分たちの価値観を押しつけがちで、それが厄介なことも引き起こすわけですが。そういう、アメリカ人気質があふれた家庭での生き方や習慣が、この本にはたっぷり描きこまれています。私たち日本人とのメンタリティの違いをそこに見ていろんなことを考えるきっかけにもなると思います。そして、何より、一緒に暮らし、一対一の関係を築くことで、いろんな価値観の違いをこえて、お互いに信頼しあっていく。そこがとても自然に描かれているのが良かった。「ジャレットは根っからのアメリカ人だった。アメリカ人の魂には人を助けたいという願望が組み込まれている」。この文章には、作者の自国に対する誇りが満ちています。この言葉を、素直に感じることが出来るのは、この物語が自分たちのメンタリティを客観的にとらえる冷静さに満ちているからでしょう。ある意味、典型的なアメリカ人の母に批判的なジャレットの視線が、そこをうまくとらえていました。ミステリー、アフリカとアメリカの現実、知り合って、理解しあうことの大切さ。たくさんの要素をぎゅっといれて、しかもうるさくない。作者の力量が感じられる、読み応えのある一冊でした。


2011年4月
評論社

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